コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 感染症発生動向調査週報 (IDWR) > 感染症発生動向調査でみる2018~2024年のRSウイルス感染症の疫学

感染症発生動向調査でみる2018~2024年のRSウイルス感染症の疫学

公開日:2025年8月8日
国立感染症研究所 感染症疫学研究分野

(掲載日:2025年8月8日)

はじめに

RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)を病原体とする急性呼吸器感染症である。RSVは、外殻を構成するGタンパク質の遺伝子によりRSV-AとRSV-Bの2つの遺伝子型に分けられる。生後1歳までに50%以上、2歳までにはほぼすべての乳幼児がRSVに初感染するとされている。初感染では、発熱や、鼻汁、咳などの上気道症状がみられ、そのうち約20~30%では気管支炎や肺炎といった下気道症状がみられることがある。また、重症化しやすい傾向があるのは、早産の新生児や早産で生後6カ月以下の乳児、月齢24カ月以下で免疫不全のある児、血流異常を伴う先天性心疾患や肺の基礎疾患を有する児、ダウン症候群の児である。主な感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスが付着した手指や物品等を介した接触感染である。治療は対症療法が中心であり、重症化した場合には、酸素投与や輸液、人工呼吸器による集中管理などが行われる。また、これまで公的医療保険では、早産児を含む重症化リスクの高い児に対し、RSウイルス感染症の重症化予防を目的として、モノクローナル抗体製剤「パリビズマブ」の使用が認められてきた。この製剤は、RSVの流行前から流行期にかけて、月1回の頻度で使用されている。また2024年5月より長期作用型モノクローナル抗体製剤「ニルセビマブ」も国内で使用可能となった。同製剤は、生後初回または2回目のRSVの流行期を迎える重症化リスクの高い児を対象としており、年1回の使用が可能である。さらにウイルスの外殻を構成するFタンパク質に対するワクチンとして2023年には「アレックスビー」が、2024年には「アブリスボ」が薬事承認された。「アレックスビー」は60歳以上の高齢者と50歳以上のRSウイルス感染症が重症化するリスクが高い者が対象であり、「アブリスボ」は60歳以上の高齢者に加え、妊娠24週~36週の妊婦にも接種が可能である。

RSウイルス感染症は感染症発生動向調査において5類感染症定点把握疾患に分類されており、2025年第14週までは全国約3,000の小児科定点医療機関から、2025年第15週以降は全国約2,000の小児科定点医療機関から、毎週報告されている。報告の対象となるのは、医師が症状や所見からRSV感染症を疑い、かつ検査によって診断された症例数である。RSウイルス感染症の診断に用いられる抗原検査の公的医療保険の適応範囲が、サーベイランスが開始された2003年では「3歳未満の入院患者」のみであったが、2006年4月に「全年齢の入院患者」へと拡大され、さらに2011年10月からは、入院患者に加えて外来の乳児やパリビズマブなどの抗体製剤が適用される患者にも保険が適用されることになった。なお、本疾患の発生動向調査は小児科定点医療機関のみからの報告であることから、成人における本疾患の動向の評価は困難である。

2018年、2019年のRSウイルス感染症の定点当たり報告数は、いずれも第37週にピークがみられたが(同週の定点当たり報告数はそれぞれ2.46および3.45)、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降は、それ以前とは違う発生動向が観察された(図1)(IDWR 2024年第15号<注目すべき感染症> RSウイルス感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)。
rsv_fig1.gif

2020年は大きく報告数が減少し、定点当たり報告数は第5週(0.35)が最も高く、その後は第52週(0.14)まで低いレベルを保ち、明らかな流行はみられなかった。2021年第1週の定点当たり報告数も0.08と低いレベルであったがその後漸増し、第15週には定点当たり報告数が1.0を超え、第28週にピーク(5.99)となった。ピーク後は減少に転じ、第38週に0.76となり1.0を下回った。2022年は19週以降増加を続け、第30週にピーク(2.37)となり、第32週からは減少して第37週は1.60であった。2023年は第1週から増加を続け、第27週にピーク(2.37)となった。2024年は第1週から増加を続けたが、明らかなピークを形成せずに第16週(1.76)から、第32週(1.45)まで同じようなレベルで推移し、それ以降は減少した。

定点当たり報告数上位5位の都道府県を表1に示す。2018~2024年はすべての都道府県の定点医療機関から報告があった。また2018~2024年における都道府県別の週ごとの定点当たり報告数を図2に示す。流行レベルに差はあるが2018~2019年は沖縄県を除くと全国的にほぼ同じような流行が観察されていた。パンデミック後では、2021年の福岡県、2022年の山形県や和歌山県では全国とは異なる流行動態が観察され、2023年では東日本と西日本でピークのタイミングの違いが観察された。
rsv_tb1.gif

rsv_fig2.gif
RSウイルス感染症報告における男女の報告数の割合は、前回のレポート(https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrs/11487-rsv-20220916.html)と同様の傾向であり、男性が52.5(2021年)~53.4%(2018年および2019年)と女性に比べて若干多かった。累積報告数は、週別報告数の推移で示した通り2020年は大きく減少し、2021年は対象期間中で最大となり、明確なピークがみられなかった2024年は2020年、2021年以外と同等であった。また年齢分布をみると、2018~2020年の2歳以上の割合は類似しており、平均29.8%であったが、2021年は50.8%と高かった(図3)。例年の年齢分布(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/8274-idwrc-1832.html)、(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/12/466tf03.gif)と比較して2021年は、0歳が占める割合が大きく減少し、2歳、3歳、4歳以上のそれぞれの割合が増加していた。2021年の各年齢における報告数と、2018年と2019年の平均報告数の比でみると、0歳は0.94なのに対し、1歳は1.43、2歳は2.68、3歳は3.53、4歳以上は3.96であった。一方で2022~2024年では、2歳以上の割合がそれぞれ47.3%、41.6%、36.8%と継続して減少しており、1歳までの児の報告例が増加している。
rsv_fig3.gif

また、5類全数報告対象疾患である急性脳炎において、原因病原体としてRSVが届出された症例は2018年が8例、2019年が9例、2020年が1例、2021年が6例であり、2022年は10例(1歳が6例、2歳および5歳が各2例)、2023年は7例(0歳、2歳および4歳が各1例、1歳および3歳が各2例)、2024年は7例(0歳および2歳が各1例、2歳が5例)であった(2025年7月5日現在)。

世界でもCOVID-19パンデミック以降にRSウイルス感染症の動向の変化が報告された。アメリカ大陸では、秋から冬にかけてと春から夏にかけてみられる2つの流行が2021年には観察されなかったが、2022年以降は2つの流行が観察されている。特に2023年の流行のピークレベルは2018年や2019年を超えるものとなった(https://www.paho.org/en/respiratory-syncytial-virus-rsv-situation-region-americas)。米国でも2021年にはRSウイルス感染症の流行が晩春に始まったが、2022~2023年シーズンでは、パンデミック前の季節性への回帰を示唆するような時期での流行を観察している(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/mm7214a1.htm?s_cid=mm7214a1_w)。英国においても、2021年にパンデミック前にはみられなかった夏期におけるRSV検査陽性率のピークの形成がみられたが、2022年以降はパンデミック前の季節性への回帰を示唆するような流行を観察している(https://www.gov.uk/government/statistics/annual-flu-reports/surveillance-of-influenza-and-other-seasonal-respiratory-viruses-in-winter-2021-to-2022)(https://www.gov.uk/government/statistics/surveillance-of-influenza-and-other-seasonal-respiratory-viruses-in-the-uk-winter-2023-to-2024)。

RSウイルス感染症を報告した小児科定点医療機関数(RSウイルス感染症を年間に1例以上報告した医療機関)は、前回のレポート(感染症発生動向調査からみる2018年~2021年の我が国のRSウイルス感染症の状況|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)で示したとおり、2006~2012年まではRSV抗原検査の公的医療保険の適用範囲の拡大を受けて報告機関数は増加し、2013年からは2018年にかけても緩やかに増加した。2018~2024年でみると、2020年を除くと報告医療機関数、うち病院の割合、診療所の割合はほぼ同じレベルで推移した(図4)。2020年はRSウイルス感染症の報告数が大きく減少したことをうけて報告医療機関数が減ったものの、2021年には2019年以前と同じレベルに戻っていた。
rsv_fif4.gif

まとめ

COVID-19パンデミックの発生をうけて2020年のRSウイルス感染症の報告数は大きく減少したが、2021年は報告数が大きく増加して、例年より早いピークがみられた。2022年は2021年よりピークの時期がやや遅れたが、2023年は再び2021年と同じような時期にピークがみられた。2024年は明確なピークが認められず、一定の流行レベルが継続していた。南北アメリカ地域あるいは英国では観察された季節性への回帰は、全国レベルで観察していない。一方で都道府県ごとに異なる流行波がみられるため、引き続き観察が必要である。年齢群別にみると、2021年には全報告数に占める2歳以上の占める割合がパンデミック前より増加したが、その後は徐々に減少して、現在はパンデミック前の割合に近づいている。また原因病原体としてRSVが届け出られた急性脳炎の報告数は、2021年は6例であり、2022年は10例、2023年および2024年は7例であった。

2020年には、RSウイルス感染症を報告した医療機関数が一時的に減少したものの、2021年以降は、報告医療機関数に占める病院数と診療所数には大きな変化はみられなかった。前述のとおりRSウイルス感染症の年齢群では1歳以下の割合が2021年から徐々に増加しており、急性脳炎の報告数もパンデミック前のレベルに戻っている。このような状況を踏まえると、今後の重症例の発生に十分注意し、継続的な観察が重要である。

近年は医療機関におけるRSウイルス感染症に対する予防や治療の選択肢が増えた。重篤化リスクのある児へのモノクローナル抗体製剤を予防投与する適切なタイミング、高齢者や妊婦に対するワクチンの適切な接種スケジュールの検討には、定点医療機関からの報告数や、より重症であるRSVが原因病原体である急性脳炎の症例数の動向を含めたRSウイルス感染症のサーベイランス情報を活用することが重要である。さらに、2025年4月より急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスが開始され、ARI病原体定点から収集された検体を用いてRSVの遺伝子型がサーベイランスとして監視されるようになった。さらに、ARI入院患者を対象とした重症急性呼吸器感染症(SARI)サーベイランスについても議論が始まっている。サーベイランス情報の活用に関して引き続き、自治体と医療機関の密な連携と情報共有が重要となる。


「感染症サーベイランス情報のまとめ・評価」のページに戻る

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。