IDWR 2026年第14号<注目すべき感染症> 麻しん
注目すべき感染症 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。
麻しん 2026年第1~14週(2026年4月8日現在)
麻しんは麻疹ウイルスを病原体とする感染症であり、高熱、全身の発疹、カタル症状を特徴とする。主に空気感染・飛沫感染・接触感染を感染経路とし、感染力は非常に強い。乳幼児が麻しんに罹患した時に合併することが多い麻しん肺炎、麻しん患者1,000~2,000人に一人の割合で合併する麻しん脳炎は麻しんによる主要な死亡原因である。また、主に乳児期に麻しんに罹患・回復した後、数年~十数年の期間を経て、重篤な亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)を発症することがある。麻しんに対する特異的な治療法はなく対症療法が中心となるが、予防接種を受けることで、麻しんの発症を防いだり、かかったとしても重症化を予防することができる。日本は2015年にWHOの西太平洋地域麻しん排除認定委員会より麻しん排除状態にあると認定され、その後も2024年まで排除状態の維持が確認されている。排除状態を維持するために麻しんに関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第442号:https://www.mhlw.go.jp/content/000503060.pdf)が定められている。本稿は、主に感染症発生動向調査に基づく国内の麻しんの疫学状況に関する直近の情報を提供することを目的としてまとめたものである。
2026年第1~14週に診断された麻しんの累積報告数(2026年4月8日現在)は236例であり、2020~2025年のいずれの年の同期間累積報告数も上回った。診断週別にみると、第1~4週は0~5例であったが、その後報告数は増加し、第11週以降は28~34例で推移するなど、直近では高水準の報告が続いている。
報告された236例のうち、234例が届出に必要な病原体診断を満たした検査診断例であり、うち、主たる臨床3症状(発疹、発熱、カタル症状)すべてを満たす典型的な「麻しん」が161例、臨床3症状のうち、1つもしくは2つを満たす「修飾麻しん」が73例であった。性別では男性158例、女性78例であり、年齢中央値は27歳(範囲0~65歳)であった。23都道府県から報告があり、都道府県別の報告数は、東京都で72例、鹿児島県で27例、愛知県23例、千葉県および神奈川県で各20例の順で多かった。都道府県別にみると、第11週以降は東京都および鹿児島県で大幅な報告数の増加がみられた。推定感染地域は国内が156例(うち都道府県不明22例)、国内・国外が5例(千葉県/ニュージーランド4例、愛知県/トルコ/カナダ/ドイツ1例)、国外が30例(インドネシア12例、ニュージーランド7例、インド3例、韓国1例、シンガポール1例、フィリピン1例、米国1例、ベトナム1例、インドネシア/シンガポール1例、ベトナム/タイ1例、フィンランド/イタリア/フランス1例)、国内・国外不明が45例であった。医療機関や保健所等により収集されたワクチン接種歴について、1~5歳(第1期定期接種済み年齢群)と、6歳以上(第2期定期接種済み年齢群)に分けて接種歴を整理したところ、1~5歳の8例では、接種歴なしが6例、1回が2例であった。一方、6歳以上の226例では、接種歴なしが33例(15%)、1回が30例(13%)、2回が73例(32%)、不明が90例(40%)であった。2回接種歴ありの73例のうち麻しんは33例、修飾麻しんは40例であった。接種歴なしの39例は全て麻しんであった。典型的な麻しんでは接種歴のない症例が多くみられた。なお、2回接種歴のある麻しん症例も一定数報告されているが、接種回数別の症例数のみを単純に比較してワクチン接種の有益性を評価することはできない。特に若年層では2回接種歴のある者が接種歴のない者を大きく上回っていることを踏まえると、2回接種者では麻しんの発症リスクは相対的に低いと考えられた。我が国では、麻しんに対する定期接種が1978年に開始され、2006年度からは現行の定期接種スケジュールである麻しんの第1期および第2期の2回接種が実施されている。
また、2026年4月8日現在、上記の236例のうち155例から検出された麻疹ウイルスの情報が感染症サーベイランスシステムに報告されており、遺伝子型の内訳はB3型98例(63%)、D8型57例(37%)であった。
ヨーロッパ地域では2024年に麻しん患者の増加がみられ、カナダでは2025年に麻しん排除状態の喪失が確認されるなど、世界各国で流行状況の変化が認められている。海外渡航を予定する際には渡航先の流行状況や自身の予防接種歴を確認の上、必要に応じてワクチン接種を受けることが重要である。
また、国内では、学校における感染事例や不特定多数が集まる施設等での患者発生を受け、複数の自治体から注意喚起が行われている。国内における感染拡大の防止のためには、個人の予防と集団免疫の維持のために、予防接種法に基づく麻しん風しん混合(MR)ワクチンの2回の定期接種の徹底が最も重要である。加えて、感染者の早期探知と迅速な対応も欠かせない。接触者への二次感染を防ぐためには、麻しん患者の適切な診断、1例でも報告された時点で各関係機関の協力のもとで行う迅速な接触者調査と対応、地域の医療機関への情報伝達と住民に対する予防のための啓発が重要である。特に、患者の広域移動や県境を越える接触者が想定される場合には、医療機関情報や行動歴等を含めた各関係自治体間での迅速な情報共有が必要である。
麻しん患者の報告がある地域や海外渡航者を診察する可能性のある医療機関においては、院内感染対策のさらなる徹底が重要である。また、麻しん患者とその接触者と接触する機会がある事務職員等を含む病院関係者全員へのワクチン接種歴・罹患歴の調査や、必要に応じたワクチン接種が推奨される。また、麻しん患者との接触があった者に対しては、接触後72時間以内であれば発症予防の可能性があることから、ワクチン接種を検討することが重要である。さらに、麻しん患者との接触のある者が発熱などの体調不良を自覚した場合には、二次感染防止のため、麻しんの可能性があることを事前に医療機関に電話で伝え、可能な限り公共交通機関の利用を避けた上で受診することが重要である。
麻しんは空気感染するため、手指消毒やマスクのみでは予防することができない。さらに感染力が非常に強く、発熱が出現する前から感染性があることから、1例の麻しん患者を起点として、同一施設や地域で患者数が増加した事例も報告されている。このため、今後も患者の発生が続く可能性があると考えられる。繰り返しになるが、麻しんの感染拡大を防ぐためには、発生時の迅速な対応だけでなく、定期接種の対象年齢である1歳児および小学校入学前1年間の幼児におけるMRワクチンの2回接種の徹底が重要である。麻しんに罹患したことがなく予防接種を受けたことのない者についても、かかりつけの医師にワクチン接種について相談することも重要である。
また、日本は麻しん排除状態を維持しているものの、海外からの輸入例を契機として散発的に集団発生が生じる可能性があり、人の移動や交流が活発化する場面では特に注意が必要である。本年は第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)など国内外から多くの人々が集まる国際的マスギャザリングイベントが予定されており、感染症の発生リスクが増加することが予想される。特に混雑した空間で不特定多数と接する機会が想定されることから、予防接種歴の確認が推奨される。
麻しんの感染症発生動向調査等に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい(2026年4月10日現在):
- 国立健康危機管理研究機構 麻しん
- 厚生労働省 麻しん(はしか)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html - 麻疹の発生に関するリスクアセスメント(2026年4月10日更新)
- 麻疹 発生動向状況 速報グラフ
- 麻疹対策・ガイドラインなど:麻しん発生状況に関する注意喚起
- 厚生労働省 麻しん発生報告数の増加に伴う注意喚起について(協力依頼)
https://www.mhlw.go.jp/content/001655886.pdf - 厚生労働省検疫所 海外渡航のためのワクチン(予防接種)
https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html - 外務省 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(2025年3月28日更新)
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2025C011.html - 麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨並びに麻しん及び風しんの任意接種に関する案内等について(依頼)
https://www.mhlw.go.jp/content/001684748.pdf - 麻しんを疑った際の対応
- 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方
- 医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版(2018年5月)
- 麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕
- WHO Immunization data - Provisional measles and rubella data
https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubella-data&location= - European Region reports highest number of measles cases in more than 25 years – UNICEF, WHO/Europe, 13 March 2025(WHO)
https://www.who.int/europe/news/item/13-03-2025-european-region-reports-highest-number-of-measles-cases-in-more-than-25-years---unicef--who-europe - PAHO calls for regional action as the Americas lose measles elimination status
https://www.paho.org/en/news/10-11-2025-paho-calls-regional-action-americas-lose-measles-elimination-status
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所
感染症サーベイランス研究部
