下水サーベイランスにより検出されたカルバペネマーゼ遺伝子保有大腸菌-岐阜県
(IASR Vol. 46 p35-36: 2025年2月号)
岐阜県内の海外型カルバペネマーゼ遺伝子保有大腸菌(carbapenemase gene-positive Escherichia coli: CP-EC)の浸潤状況の把握のため, 下水処理場流入水から継続的に分離を行い, 岐阜県内の医療機関から届出されたカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症菌株と比較を行った。
2017~2022年度に届出されたCRE感染症患者分離株(以下, 症例株)のうち, CP-ECは4症例4株あり, いずれも異なる医療機関からの届出で, 疫学的関連は認められなかった。下水処理場流入水は, 2017~2018年度, 2021~2022年度に県内1施設より月1回採取した。スクリーニング培地としてクロモアガーKPC, クロモアガーmSuper CARBA(関東化学)を用い, mCIMまたはCarba NP testによるカルバペネマーゼ産生試験とPCR法によるβ-ラクタマーゼ遺伝子の検出をした。CP-ECは48検体のうち10検体より32株分離した。同一検体由来株のうち, PCR法で検出されたβ-ラクタマーゼ遺伝子保有パターンが同一の株を重複株として除き15株(以下, 下水株)を得た。症例株と下水株の計19株について, 微量液体希釈法(ドライプレート, 栄研化学)により薬剤感受性を測定した。全ゲノム解読(WGS)はIllumina社のショートリードシーケンサーを用い, 薬剤耐性遺伝子の検出, multilocus sequence typing(MLST)等の解析を行った。
19株のうち1株を除く18株はNDM型CP-ECであった(図, 表)。このうち, blaNDM-5が検出されたCP-ECは症例株のうちの3株, 下水株のうちの11株であり, 2018年11月以降断続的に分離されていた。MLSTによるsequence type(ST)は, ST38, ST405, ST410等, 10種類の多様なSTに分類され, そのうちST167が症例株と下水株で共通して検出された。一方, blaNDM-7保有株は, 海外渡航歴のある症例から2022年9月に1株, 下水からも同年10月以降に3株検出され, 4株すべてがST2083であった。
ST167はblaNDM-5保有株として世界中で検出されているパンデミッククローンの1つであり1), 日本では2015年に海外渡航歴のある患者から検出されている2)。そのほか, NDM型やOXA-48型の拡散に関与しているとされているST38やST410など3,4), すでに複数のクローンが県内に存在していると考えられた。症例株と比較して下水株の方がより多くのβ-ラクタマーゼ遺伝子を保有し, 薬剤感受性試験での多剤耐性傾向も強かった。ST2083は東南アジアからの検出報告が多いSTで, blaNDM-5保有株が2015年に中国で初めて検出されており5), 海外からの流入が推察された。
また, 下水由来で検出されたblaOXA-181のみを保有する株のカルバペネム系抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)は低く, 臨床分離株が存在していてもCRE感染症の届出として把握されていない可能性があると考えられた。
下水は, ポリオや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を把握する目的ですでにサーベイランスに活用されているが6,7), 市中に存在する薬剤耐性菌の動向を監視する材料としても有用であり, 継続的に調査していく必要がある。
参考文献
- ECDC, Surveillance Report May 2023
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/Increase-E-coli-isolates-blaNDM-5-EU-EEA-may2023.pdf - 鈴木里和ら, IASR 37: 82-84, 2016
- Chowdhury PR, et al., mSystems 8: e01236-22, 2023
- Manges AR, et al., Clin Microbiol Rev 32: e00135-18, 2019
- Bi R, et al., Front Microbiol 9: Article 2704, 2018
- 芦塚由紀ら, IASR 40: 88-90, 2019
- 坂 恭平ら, IASR 45: 100-101, 2024