腸管出血性大腸菌感染症
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(IDWR 2002年第6号掲載)
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)感染症の原因菌は、ベロ毒素(Verotoxin=VT,またはShiga toxin=Stxと呼ばれている)を産生する大腸菌である。EHEC感染症においては、無症状から致死的なものまで様々な臨床症状が知られている。特に、腸管出血性大腸菌感染に引き続いて発症することがある溶血性尿毒症症候群(HUS)は、死亡あるいは腎機能や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患である。HUSの発生予防につなげるためにも、HUSの実態把握と発生の危険因子を特定することが重要である。
疫学
1982年に米国でハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生した事例において、大腸菌O157 が下痢の原因菌として分離された。その後北米、欧州、オーストラリアなどでも集団発生が相次いで発生している。我が国では、1990年埼玉県浦和市の幼稚園における井戸水を原因としたO157 集団発生事件で、園児2名が死亡して注目された。その後、1996年に入り爆発的な患者数の増加をみた。この年の5月岡山県に始まった集団発生から、7月には大阪府堺市での患者5,591名に上る集団発生事件へと進展、その主な原因は給食あるいは仕出し弁当であった。1997年以降、集団事例の報告数は減ったものの、散発事例における患者数はほぼ横ばい状態で年間千数百人の患者が発生している。

図1.腸管出血性大腸菌O157:H7感染症発生件数
また、現在の複雑な流通事情を反映して、同一汚染食品が広範囲に流通した結果、一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例(diffuse outbreak)が発生しており、1998年には北海道産のイクラを原因食品として7都府県で患者49名が発生した事例が報告されている。さらに、2001年には輸入牛肉を原材料とした「牛タタキ」を汚染源とし、7都県で240名の患者が発生する事例も報告された。一方、本症では家族内発生と二次感染が多いことも特徴である。発生時期は、夏季に多いが冬季にもみられる(図1)。
病原体

図2.腸管出血性大腸菌O157:H7の電子顕微鏡写真(15,000倍)
菌体の長さ約2.5マイクロメータ、幅約1マイクロメータで、周囲には鞭毛がみられる。
腸管出血性大腸菌感染症の原因菌は、ベロ毒素(Verotoxin=VT, またはShigatoxin =Stxと呼ばれている)を産生する大腸菌である(図2)。ベロ毒素は、培養細胞の一種であるベロ細胞に対して致死的に作用することから、この名前が付けられている。ヒトを発症させる菌数はわずか50個程度と考えられており、二次感染が起きやすいのも少数の菌で感染が成立するためである。また、この菌は強い酸抵抗性を示し、胃酸の中でも生残する。
知られている主な病原因子は、定着因子としてattaching and effacing病変を形成するIntimin と、ベロ毒素(抗原性の違いによりStx1とStx2がある)である。我が国においては、患者及び保菌者から検出される腸管出血性大腸菌のO 抗原による血清型は、O157がもっとも多く、O26とO111がそれに次ぐ。分離培地上でのO157はそれ以外の血清型や一般の大腸菌などと異なり、ソルビトールを非分解であり、また、β‐D‐glucuronidase(MUGテスト)が陰性である。
臨床症状

図3.腸管出血性大腸菌O157:H7感染時の血便
腸管出血性大腸菌感染症は、O157をはじめとするべロ毒素産生性の腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli, EHEC)で汚染された食物などを経口摂取することによっておこる腸管感染が主体である。また、ヒトからヒトへの二次感染も問題となる。その症状は、無症 候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで、様々である。
多くの場合、3~5日の潜伏期をおいて、激しい腹痛をともなう頻回の水様便の後に、血便となる(出血性大腸炎)。発熱は軽度で、多くは37度台である。血便の初期には血液の混入は少量であるが次第に増加し、典型例では便成分の少ない血液そのものという状態になる(図3)。有症者の6~7%において、下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内に、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)、または脳症などの重症な合併症が発症する。HUSを発症した患者の致死率は1~5%とされている。
病原診断
確定診断は、糞便からの病原体分離とベロ毒素の検出によってなされる。それには、便培養による菌の分離、および生化学的同定、血清型別、ベロ毒素試験等を行うことが必要となる。患者の便はそのまま、あるいは100倍に希釈して直接分離培地に塗抹し、37度で18~24時間培養する。
腸管出血性大腸菌O157の分離には、ソルビトール・マッコンキー培地(CT‐SMACがよい)上で灰白色半透明のソルビトール非分解集落を10個程度釣菌後、確認同定する。O157以外の血清型の腸管出血性大腸菌の分離のために、ソルビトール分解集落(桃色、赤色)も同様に釣菌後、確認同定する。スライド凝集反応は、ソルビトール非分解集落からの菌苔についてはO157抗血清を、ソルビトール分解集落からの菌苔については、O26、O111、O128など腸管出血性大腸菌の血清型として報告のある抗血清を用いて行うのがよい。
患者に血便、HUSの症状がみられるのに、分離株が市販の病原性大腸菌免疫血清に凝集しない場合には、典型的な血清型以外の腸管出血性大腸菌の可能性があるので、分離大腸菌株すべてについて毒素産生試験を行うことが望ましい。腸管出血性大腸菌の毒素産生性試験に関しては、免疫学的検査(酵素抗体法等)及びPCR法を用いた遺伝子検査がある。
治療・予防
治療については、「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」(https://www.mhlw.go.jp/www1/o-157/manual.html)が、厚生省、(現厚生労働省)の研究班により作成されている。予防対策としては、汚染食品からの感染が主体であることに留意して、食品を十分加熱したり、調理後の食品はなるべく食べきる等の注意が大切である。とくに若齢者、高齢者及び抵抗力が弱いハイリスク・グループに対しては、重症事例の発生を防止する観点から、生肉又は加熱不十分な食肉を食べさせないよう、医療関係者や公衆衛生関係者から販売者、消費者等への注意喚起が必要である。
ヒトからヒトへの二次感染に対しては、糞口感染であることから、手洗いの徹底等により予防することが可能である。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
全数報告対象(3類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)
学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)
第3種の感染症に定められており、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで出席停止とされている。
(国立感染症研究所細菌部 寺嶋淳)
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