伝染性紅斑(詳細版)
記事更新日:2025年8月12日
伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は頬に出現する蝶翼状の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる流行性発疹性疾患である。両頬がリンゴのように赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもある。本症の病因は1983年にヒトパルボウイルスB19であることが提唱され、その後の研究によって確実なものとなった。病因が明らかになったことに伴って、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになった。
病原体
ヒトパルボウイルスB19は単鎖DNAウイルスであり、パルボウイルス科エリスロパルボウイルス属に属する。レセプターは赤血球膜表面にあるP抗原で、P抗原保有細胞、特に赤芽球前駆細胞に感染し、増殖する。
病原診断
ウイルスを分離することが病原診断の基本であるが、ヒトパルボウイルスB19は骨髄、胎児肝、臍帯血などの赤芽球系前駆細胞と、一部の赤白血病細胞株でしか増殖できず、通常の組織培養を用いたウイルス分離培養は現在のところ困難である。PCR法による遺伝子の検出、血清学的に特異的IgMやIgG抗体の上昇を確認することで診断を得る。なお健康保険による診療での制約があり、紅斑が出現している15歳以上の成人について、ヒトパルボウイルスB19による感染症が強く疑われ、IgM型ウイルス抗体価を測定した場合のみ、適用となる。
臨床症状
写真1.両側の頬に出現した蝶翼状の発疹
写真2.上肢伸側に出現した発疹
感染から7日程度に一部の症例では微熱やかぜ症状などの前駆症状が出現した後、感染から10~20日程度に両頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状-リンゴの頬)が現れ(写真1)、続いて四肢に網目状・レ-ス状・環状などと表現される発疹がみられる(写真2)。胸腹背部にもこの発疹が出現することがある。これらの発疹は多くの症例では1週間前後で消失するが、遷延したり、いったん消失した発疹が短期間のうちに再出現したりすることがある。成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1~2日間歩行困難になることがあるが、基本的には予後良好である。また本疾患の約4分の1は不顕性感染である。さらに、一度感染すると終生免疫が得られ、再感染しない。なお感冒様の前駆症状の時期に感染性が強いとされているが、紅斑・発疹出現時には他者への感染性は消失している。主に飛沫感染もしくは接触感染で伝播し、保育施設や学校等での集団感染、家庭内での二次感染で広がる。前駆症状を発症した時期に採取された輸血用血液による感染の症例報告も稀な事例として存在する。
多様なヒトパルボウイルスB19臨床像-伝染性紅斑のみではないヒトパルボウイルスB19感染症
伝染性紅斑は典型的なヒトパルボウイルスB19感染症の臨床像であるが、ヒトパルボウイルスB19感染症の臨床像は紅斑のみにとどまらない。溶血性貧血患者がヒトパルボウイルスB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)を生ずることがある他、関節炎・関節リウマチ、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群(VAHS/HPS)や、免疫不全者における持続感染の結果、赤芽球系の慢性骨髄不全が生じることなども伝染性紅斑に合併、あるいは独立してみられる。
ヒトパルボウイルスB19感染症で注意すべき臨床像の一つとして、妊婦感染による胎児の異常(胎児水腫)および流産・死産がある。成人の30~80%、妊婦の約46~70%がヒトパルボウイルスB19への抗体が陽性であるが、抗体陰性の妊婦が感染した場合、胎児に経胎盤感染し、流産や死産、胎児水腫といった重篤な合併症につながることがある。妊娠前半期の感染がより重篤な転帰を生じ、胎児死亡は感染から4~6週後に生ずることが報告されているが、妊娠後半期での胎児感染の報告もあり、安全な時期を特定できない。一方、妊婦のヒトパルボウイルスB19感染が即胎児の異常に結びつくものではなく、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、ヒトパルボウイルスB19感染が確認された新生児でも、妊娠分娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は知られていない。妊婦がヒトパルボウイルスB19に感染したことが判明した際は、超音波断層検査などで胎児の状態をよく把握することが重要である。
血漿分画製剤からのヒトパルボウイルスB19感染リスク
ヒトパルボウイルスB19の性状から、他のウイルスに比べて不活化・除去が容易でないため、完全には不活化・除去することが困難であり、製剤中への混入の可能性を否定できない。以前は混入例による感染の報告が年1例程度あったが、2008年に導入されたCLEIA法により検査精度の向上により混入製剤の除去率が向上し、2014年時点で4~5年に1例程度まで減少した。2025年時点では、国内で販売されている血漿分画製剤の投与と因果関係が確認されたヒトパルボウイルスB19感染の報告はない。
治療・予防
特異的な治療法はなく、経過観察・解熱鎮痛剤等による対症療法のみである。免疫不全者における持続感染、溶血性貧血患者などではγ-グロブリン製剤の投与が有効なことがある。現在のところワクチンはない。発疹出現時期にはほとんど感染力を消失しているが、反対に感染力のある期間には特徴的な症状を呈さず診断に至らないため、その対策は容易ではない。妊婦や、基礎疾患として溶血性貧血や免疫不全を有する人が感染すると重篤な合併症につながる可能性があるため、これらの背景を持つ人へ本疾患の流行に関する情報を提供することが重要である。また、これらの背景を持つ人が体調を崩している小児へケアをする場合や多くの小児と接触する場合においては、手洗いの徹底や、食器の共有をしないこと、マスクを着用することなどを考慮すべきである。妊婦が感染した場合には、胎児の状態を注意深く観察する。
各種法令による取り扱い
感染症法における取り扱い(2025年7月30日現在)
定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約2,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)
学校保健安全法における取り扱い(2025年7月30日現在)
第3種の感染症の「その他の感染症」に該当する。発疹期には感染力はないので、発疹で全身状態の良いものは登園・登校可能である。
学校保健安全法施行規則に基づいて記載された「学校において予防すべき感染症の解説」における伝染性紅斑の扱いはこちら(外部サイトにリンクします)
国立健康危機管理機構
国立感染症研究所
感染症サーベイランス研究部
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