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ニパウイルス感染症の発生状況とリスク評価

国立健康危機管理研究機構

2026年1月30日時点

1.ニパウイルス感染症の概要

ニパウイルスはパラミクソウイルス科へニパウイルス属に属するエンベロープを持つマイナス鎖1本鎖RNAウイルスである。南アジアから東アジアの熱帯・亜熱帯地域に生息するオオコウモリ(フルーツバット)を自然宿主とし、オオコウモリとの直接の接触、オオコウモリの体液に汚染された果実、野菜やその未加熱の加工品の摂取、オオコウモリから感染したブタやウマとの接触によりヒトに感染するほか、家庭内や医療機関内での患者との濃厚接触によりヒト-ヒト感染を起こす。

感染後4-14日程度の潜伏期間ののち、発熱、頭痛、筋肉痛などの非特異的な症状で発症し、進行するとめまい、眠気、意識障害などの神経学的症状が出現するほか、呼吸器症状を合併するという報告もある。複数の抗ウイルス薬の使用報告があるが、有効性、安全性の確立した治療やワクチンはない。致命率は40%から75%と報告されるが(WHO, 2026)、地域によってサーベイランス能力、医療体制が異なることで症例の把握状況に差があり、軽症例が見逃され致命率が過大評価されている可能性があることに注意が必要である。

WHOは、ワクチンや治療薬がないこと、致命率が高く、ヒト-ヒト感染を起こしうることから、研究開発を優先的にすすめるべき、パンデミックを起こしうる「priority disease」の一つとして挙げている(WHO, 2024)。

2.ニパウイルス感染症の発生状況

ニパウイルス感染症は1998年から1999年にマレーシアおよびシンガポールで初めての発生が報告された。この流行ではオオコウモリからブタにウイルスが伝播し、ブタでの呼吸器感染症の流行を介して、ヒトへの感染伝播が起こったと考えられている(Chua, 2003)。

以降フィリピン、バングラデシュ、インドで発生報告があり、とくにバングラデシュ、インドでは2001年以降毎年のように発生報告がある。マレーシアとは異なり、バングラデシュ、インドからはオオコウモリの体液に汚染されたナツメヤシの樹液、果実、加工品の経口摂取による感染事例が多く報告されている。また、家庭内での患者との濃厚接触、医療機関での患者の診察に伴う医療関連感染も報告されている。一方で、ヒト-ヒト感染による大規模な市中感染はこれまで報告されていない。また、ヒトでの発生報告がない国も含め、ニパウイルス抗体を保有するオオコウモリが報告されており、オオコウモリが生息する地域においては、地域の状況に応じた発生リスクが存在すると考えられる。

日本国内では、これまでニパウイルス感染症患者の報告はない。また、国内でオオコウモリが生息する地域は小笠原諸島及び南西諸島に限られおり、ニパウイルスを保有しているオオコウモリの報告もない。

3.リスク評価

  • ニパウイルス感染症は南アジア、東南アジアにおいて、オオコウモリ、ブタなどの感染動物との接触、その体液で汚染されたナツメヤシなどの果物、野菜、およびその未加熱の加工品の摂取、家庭内、医療機関での患者及びその体液への接触を介して感染する。そのため、南アジア、東南アジア諸国においてこれらのリスク行為が伴う場合の感染リスクは高い。
  • 近年は南アジア地域での発生が報告されるが、いずれも前述のようなリスク行為に伴う小規模な流行にとどまっており、大規模な市中でのヒト-ヒト感染は報告されていないことから、リスク行為のない渡航者および現地滞在者がニパウイルスに感染するリスクは低い。
  • ニパウイルスの宿主として知られるオオコウモリの生息地域は、国内では一部の島しょ部に限られ、また国内でニパウイルスを保有するコウモリの報告はないことから、国内におけるニパウイルス感染症の感染リスクは低い。
  • 輸入例が発生した際、適切な感染対策がとられなかった場合に、国内で家庭内感染、医療関連感染が発生する可能性がある。一方で、日常生活における接触で容易にヒトからヒトへ広がる感染症ではなく、国内の市中でニパウイルスが伝播する可能性は低い。

4.推奨される対応

  • ニパウイルス感染症の流行地域に渡航する場合、現地では以下のような健康管理が推奨される。 
    1. 基本的な感染予防策として、石鹸と水での手洗いやアルコール消毒液の使用などの手指衛生、マスクの着用や咳エチケットを実施する。
    2. コウモリやブタへの直接の接触、洗っていない生の果物やナツメヤシ等の樹液に触れたり、食べたりするといった行動を避ける。
    3. ニパウイルス感染症患者及びニパウイルス感染症が疑われる体調不良者との接触をできる限り避け、接触する場合は手袋などを用いて患者やその体液との直接の接触を避け、手指衛生などの基本的な感染予防策を実施する。
    4. 渡航中に上記のようなリスク行為があり、発熱、頭痛、めまい、神経症状などニパウイルス感染症を疑う症状が出た場合は、渡航中・渡航後に関わらず速やかに医療機関を受診し、渡航歴・現地での行動を伝える。
  • ニパウイルス感染症の流行地域でリスク行為がある渡航者が、国内でニパウイルス感染症を発症する可能性がある。このような渡航者における、原因不明の急性脳炎、急性呼吸器感染症をはじめとする重症感染症患者を診察する場合、医療従事者はニパウイルス感染症を鑑別にあげ、感染対策を含め適切な対応をとる必要がある。臨床対応における詳細は、「へニパウイルス感染症診療指針 2024」を参照のこと。

関連項目

国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 ニパウイルス感染症

国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 ニパウイルス感染症およびヘンドラウイルス感染症検査マニュアル (第1.2版)

国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 国際感染症センター へニパウイルス感染症診療指針 2024(外部サイトにリンクします。)

厚生労働省 検疫所 FORTH(外部サイトにリンクします。)

参考文献

 

作成担当

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 感染症臨床政策部

 

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