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IASR 457(3), 2024【特集】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月

公開日:2024年3月26日

(IASR Vol.45 p33-34:2023年3月号) (2024年3月27日黄色部分加筆、横線部分削除)

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、ヒトや動物の皮膚、粘膜等の体表面に常在するグラム陽性球菌である。健常人の20-30%が保菌者であるといわれている。本菌は化膿症や膿痂疹などの皮膚軟部組織感染症(SSTI)、さらには菌血症や毒素性ショック症候群(TSS)など様々な感染症を引き起こすが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)感染症で多いのは肺炎、菌血症や手術関連感染症である。黄色ブドウ球菌の多様な病原性の理由の1つは、多種多様な毒素や病原性関連因子を産生することである(本号3ページ)。

1940年代、ペニシリンが実用化され市場に出ると、すぐにペニシリンのβ-ラクタムを加水分解するペニシリナーゼを産生するペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が出現し、1950年代末には問題化した。その後、ペニシリナーゼに加水分解されないペニシリン系抗菌薬であるメチシリンが開発され、1960年に市場投入された。その翌年、英国で初めてMRSAが報告された。MRSAはメチシリン耐性遺伝子mecAまたはmecCを含むstaphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)を獲得することで、その遺伝子産物であるβ-ラクタム系薬低親和性ペニシリン結合蛋白(PBP2’)によりペニシリン系を含む多くのβ-ラクタム薬に耐性を示す。

MRSAの鑑別は、Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100 33th edition 2023に準拠したディスク拡散法または微量液体希釈法による薬剤感受性試験にてオキサシリン、またはセフォキシチン耐性の表現型を確認して実施することが推奨されている。

わが国ではMRSA感染症は、1999年4月に施行された感染症法で4類定点把握対象疾患に、その後2003年11月の感染症法の改正で5類定点把握対象疾患に位置づけられた〔基幹定点医療機関(病床数300以上の内科または外科を標榜する病院、全国約500定点)の医師がMRSA感染症と診断した場合、月単位で届け出ることが義務付けられている(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-41-01.html)(外部サイトにリンクします)〕。現時点では感染症法の判定基準にはセフォキシチン耐性は記載されていない。これはセフォキシチンが2013年頃から治療に使用され始めたためである。

感染症発生動向調査によると、2022年のMRSA感染症の定点当たり報告数は30.7であった。遡ってみてみると(図1)、集計が始まった1999年~2007年にかけて定点当たりの報告数が53.2まで増加したが、それ以降、減少傾向に転じて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前の2018年から報告数33.9で横ばいであった。さらに、その後のCOVID-19流行中の2020年以降では、入院患者数自体が7-8%減少した。MRSA感染症報告数も2021年まで減少傾向を示した。性別は、男性の方が女性よりも例年約1.7倍多く推移している(図1)。年齢別での年別報告数では、70歳以上の高齢者が2004年以降は6割を超えており、2022年は68.9%であった(図2)。また、4歳以下の小児では2001年以降10%以下で推移している。

厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)によると、2022年の検査部門入院患者における黄色ブドウ球菌分離患者に占めるMRSA分離割合は45.6%であった(本号5ページ)。薬剤耐性対策アクションプラン(NAP)2023-2027では、成果指標としてJANISデータを基にした黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率20%以下(血液検体)を掲げている。

MRSA感染症の中でも、菌血症や心内膜炎などの血流感染症は致命率が20%以上とも報告されており、重篤な感染症である(本号6ページ)。MRSAは国内の医療機関で広く検出されているが、時に施設内でアウトブレイクが確認されることがあり、保健所が介入する公衆衛生対応が必要な場合もある。また、小児科におけるMRSA感染症において最も重要な課題は、新生児集中治療室(NICU)での感染防止である(本号7ページ)。

MRSAは出現当初、入院患者から分離され、市中での感染は稀であったが、1981年に米国で明らかな市中感染症例が初めて報告された。このMRSAは、院内感染症例から分離されるMRSAとは異なる性状を示したことから市中獲得型MRSA(community-acquired MRSA: CA-MRSA)と、それに対し、従来型の院内感染症を起こすものを医療関連型MRSA(healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)として区別して呼称した。しかしながら、1990年代後半からHA-MRSAとCA-MRSAでは疫学についても異なることが分かってきた。これらのMRSAは遺伝学的にSCCmecの構造の違いにより分類されてきた(本号4ページ)。HA-MRSAのSCCmec型は1~3型、CA-MRSAは4型と5型である。HA-MRSAの多くは多剤耐性を示すのに対し、CA-MRSAはβ-ラクタム薬以外には感受性を示し、両者の薬剤感受性パターンには明らかな違いがあった。しかし、現在では病院内に従来のCA-MRSAのSCCmec型を持つ株が入り込み、院内感染症を起こしており、HA-MRSA/CA-MRSAの分類そのものに意味がなくなってきている。SCCmec型と菌の遺伝学的系統には関連性があるので、MRSAを型別する際には、SCCmec型別を実施することが望ましい。臨床現場では、ゲノムデータを元にSCCmec型配列も考慮して考案されたPCR-based ORF Typing(POT)法が簡易タイピング法として分子疫学解析に用いられている。JANISで収集された病院内で分離されたMRSAの薬剤感受性プロファイルと広島大学病院で分離されたMRSAのゲノム解析データから、日本においても経年的に病院内で分離されるMRSAの薬剤感受性パターンに変化があることが報告されている(本号8ページ)。

動物におけるMRSA感染症として、家畜産業領域においてヒト由来系統とは異なる家畜関連MRSA(livestock-associated MRSA:LA-MRSA)が欧州を中心に報告されている。世界各地で研究が進んでおり、このLA-MRSAクローンがヒトと動物間で行き来する感染例も報告されている。日本では2010年以降に特定の地域で調査が開始され、欧州と比べて少ないながらもLA-MRSAの分離報告があり、全国的な分離状況に関する情報が待たれるところである(本号10ページ)。また、伴侶動物(特に犬猫)領域におけるMRSAも最近注目され、獣医学領域における抗菌薬適正使用や動物病院での感染防止対策の重要性が高まっている(本号11ページ)。

今後のMRSA感染症の問題に挑むには、施設内感染対策、抗菌薬の適正使用はいうまでもなく、動物やそれらを取り巻く環境を含めたワンヘルスでの総合的な理解と対策が不可欠である。

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