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わが国における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の疫学(2025年7月4日現在)

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わが国における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の疫学(2025年7月4日現在)

(IASR Vol. 46 p178-179: 2025年9月号)

はじめに

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)の病原菌は, β溶血を示すA群(Group A Streptococcus: GAS, 主にS. pyogenes), B群(GBS, 主にS. agalactiae), C群およびG群(GCS or GGS, 主にS. dysgalactiae subsp. equisimilis: SDSE) の溶血性レンサ球菌などである。

2024年1月, GASによるSTSS届出数の増加に加え, 病原性および伝播性が高いとされるS. pyogenes M1UK lineageの集積が確認されたことを受け, 厚生労働省や国立感染症研究所等から注意喚起が発出され, 発生動向への注目が高まった1-3)。さらに, 2024年には, 文献上では国内で初めてと考えられるSTSSの集団感染事例が報告された4)

前回のIASR特集関連情報(IASR 36: 153-154, 2015)では2012年~2015年第24週の感染症発生動向調査の届出について報告した。本稿では, 2015年1月~2025年6月の10年間に届出された8,748例(2025年7月4日現在)の概要を報告する。

発生状況

年間の届出数は2015年(413例)から2019年(898例)にかけて年々増加傾向を示したが, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期間にあたる2020~2022年には約600-700例に減少した(図1)。その後, 2023年秋頃から増加に転じ, 2024年1月(244例)にピークを認めた後, 夏に向けて減少したが, 2024年はこれまでで最多となる1,905例が届け出られた。2025年7月現在, 毎月100件を超える届出がなされている。届出に必要な臨床症状(複数回答)は, ショック症状を必須症状とし, 腎不全(71%), 播種性血管内凝固症候群(58%), 軟部組織炎(56%), 肝不全(27%), 中枢神経症状(26%), 急性呼吸窮迫症候群(18%), 全身性紅斑性発疹(8%)であった。推定感染経路(複数回答)は接触感染・創傷感染(43%), 不明(42%), その他(経口感染を含む)(12%), 飛沫・飛沫核感染(8%)であった。

血清学的分類別の発生状況(Lancefield 分類:A群, B群, G群)

A群3,956例(男性2,163例, 女性1,793例), B群1,275例(男性679例, 女性596例), G群2,838例(男性1,524例, 女性1,314例)であった。分類がC群, その他, 不明, 複数であった679例を除いた。届出時点の年齢中央値(四分位範囲)はそれぞれ66(51-76)歳, 74(58-84)歳, 81(71-88)歳であった。届出時死亡症例の割合はA群24.6%, B群22.4%, G群28.9%であり, 年齢中央値(四分位範囲)はそれぞれ70(56-80)歳, 79(66-86)歳, 83(74-90)歳であった。発生動向調査における死亡例は原則として届出時に死亡報告がある者のみであり, 届出後に死亡した例は含まれていない。各群とも死亡例は非死亡例に比べて高齢傾向を示しているが, 実際の致命率は各群ともさらに高い可能性がある5)

A群

高齢者に限らず, 比較的若年層でも発症がみられ, 65歳未満の届出がA群全体の47.3%を占めた。届出数は2019年までは増加傾向であったが, COVID-19流行下の2020~2022年に減少した後, 2023年11月以降急増した(図1)。STSS全体の届出数の増減は, A群によるSTSS症例の増減の影響が大きかった。年齢分布の経時的変化は, 2020~2022年はその他の年に比較して全体に対する30代, 40代の占める割合が低かった(図2)。

B群

高齢者に多い疾患であるが, 新生児から乳児期(生後0か月64例, 1~3か月38例, 4~11か月6例)の届出もなされている。届出数は, 2015年以降, 毎年増加傾向である(図1)。届出に必要な臨床症状では, A群, G群に比べて軟部組織炎を呈する割合が少なく, 中枢神経症状を呈する割合が高い傾向を認めた(特に0歳:軟部組織炎11%, 中枢神経症状70%)(図3)。

G群

65歳以上の高齢者が84.2%を占めた。届出数は2019年まで増加傾向, 2020~2023年はほぼ横ばい, 2024年は増加を認めた(図1)。

STSSは, 血清群や菌種5)により, 発生動向や症状などの臨床疫学的所見も異なることが示唆される。一方, いずれの血清群においても致命率が非常に高い疾患である。引き続き, 中長期的な発生動向や, 基本的な疫学の変化を追跡すること, 微生物学的および病理学的・疫学的な分析に基づく病態解明や適切な診療の確立が重要である。

謝辞:日頃より感染症発生動向調査に御協力いただいております医療機関や各自治体の皆様に深く感謝いたします。

参考文献

  1. 光嶋紳吾ら, IASR 45: 29-31, 2024
  2. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課長, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の分離株の解析について(依頼), 令和6(2024)年1月17日付感感発0117第5号
    https://www.mhlw.go.jp/content/001236946.pdf
  3. 藤井 充ら, IASR 46: 45-46, 2025
  4. 村井晋平ら, IASR 46: 70-71, 2025
  5. Tsuchihashi Y, et al., Int J Infect Dis 158: 107962, 2025
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
   応用疫学研究センター

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