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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 46 p226-228: 2025年11月号)

鳥インフルエンザウイルス

A/H5ウイルス

2024年9月以降, 家禽・野鳥・愛玩鳥等でのA/H5ウイルス(N1, N2, N3, N5, N9 NA亜型, NA亜型不明も含む)による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が欧州, アフリカ, アジア, 北米, 中米, 南米, さらに南極大陸から報告され1,2), オセアニアを除く世界中に感染拡大した。NA亜型別ではN1が欧州37カ国/地域, アフリカ6カ国, アジア12カ国/地域, 北米2カ国, 中米2カ国, 南米4カ国で, N2がアジア2カ国, カナダで, N3が韓国で, N5が欧州9カ国/地域, カナダで, N9がフィリピンでそれぞれ検出されている(2025年9月22日時点)1)。このうちヒト感染が報告されたのはN1のみである(2025年9月29日時点)3)

A(H5N1)ウイルスのヒト感染は, 米国で2024年9~10月に26例, 11~12月に15例, 2025年1~3月に3例, カナダで2024年11月に1例, ベトナムで2024年11月に1例, 2025年4月に1例, バングラデシュで2025年2月に1例, 4月に1例, 5月に1例, 7月に1例, カンボジアで2025年2月に1例, 3月に1例, 5月に1例, 6月に8例, 7月に3例, 9月に1例, 中国で2025年5月に1例, インドで2025年3月に1例, メキシコで2025年3月に1例, 英国で2025年1月に1例報告されている(2025年9月29日時点)3)。また, 報告時点でNA亜型不明のA/H5ウイルスのヒト感染は, カンボジアで2025年1月に1例, 米国で2024年9~10月に4例, 12月に2例, 2025年1月に6例, バングラデシュで2025年7月に1例が報告されている。これらヒト感染を起こしたA/H5ウイルスのHAのクレードは, カンボジアの事例では2.3.2.1e, インドの事例では2.3.2.1a, それ以外の多くの事例では2021年以降に鳥類で世界的に大流行している2.3.4.4bに分類されることが報告されている。

2024/25シーズンの日本でのA(H5N1)ウイルスによるHPAIは, 2024年10月~2025年2月に家禽で51事例(14道県), 2024年9月~2025年6月に野鳥・環境試料で227事例(19道県)の発生が確認された1)

ヒトを除く哺乳類でのA(H5N1)ウイルス感染は, 2020年以降, 世界中に拡がり, 少なくとも26カ国で確認された。2023年までの4年間で, キツネ, クマ, ネコ, イヌなどの陸生哺乳動物や, イルカ, アザラシなどの水生哺乳動物など, 合計48種以上で感染が報告されている4)。さらに, 2024年3月に米国の乳牛で初めて検出されたA(H5N1)ウイルスは, その後1,000例以上(米国18州)の乳牛で感染が認められ5), 感染乳牛と接触歴がある41人の感染が報告されている6)。日本の哺乳類でのA(H5N1)ウイルス感染は, 2024/25シーズンに北海道のゼニガタアザラシとラッコで計5例確認されているが, ヒト感染は確認されていない。日本の哺乳類でのA(H5N1)ウイルス感染事例と, 米国における乳牛を含むヒト感染事例については, それぞれ本号20ページ18ページを参照されたい。

A/H7ウイルス

2024年9月以降, 家禽・野鳥・愛玩鳥等でのA/H7ウイルスによるHPAIは, オーストラリア(N8亜型), ニュージーランド(N6亜型), 米国(N9亜型)で発生が報告されている(2025年9月22日時点)1)

2013年3月に世界初の低病原性A(H7N9)鳥インフルエンザウイルスのヒト感染が中国で報告され, 流行の第5波(2016年10月~2017年9月)以降には, 家禽に高病原性を示すようになったHPAI A(H7N9)ウイルスのヒト感染も報告された。2013年以降で1,568例のヒト感染, 616例の死亡が確認されたが, 家禽へのワクチン接種開始による鳥インフルエンザ発生数の減少にともない, 2017年9月以降のヒト感染例数は激減した7)。2019年3月に中国内モンゴル自治区での感染を最後に, ヒト感染の報告はない(2025年9月29日現在)8)

A/H9ウイルス

2024年9月以降, A(H9N2)ウイルスのヒト感染は, 中国で2024年9月に3例, 10月に6例, 11月に2例, 12月に1例, 2025年1~2月に8例, 3~4月に11例, 5月に4例, 6月に1例, 7月に2例, 8月に2例が報告されている。多くは軽症例であったが, 一部重度の肺炎例もあった3)

2024年9月以前にもエジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーン, カンボジアでヒト感染例の報告があり, 1998年以降のヒト感染は110例以上となった3,9,10)。A/H9ウイルスは, 現在もアジア, アフリカを中心に家禽の間での流行が確認されている3)

その他の亜型ウイルス

2024年12月に中国の広西チワン族自治区で1例, 2025年4月に陝西省で2例のA(H10N3)ウイルスによるヒト感染が報告された3)。患者は発症前に家禽に接触歴があることが判明している。A(H10N3)ウイルスによるヒト感染は, 中国および世界で6例となったが, ヒト-ヒト感染は確認されていない。

世界各地の家禽や野鳥からは様々な亜型の鳥インフルエンザウイルスが検出され, ウイルス流行地域の拡大にともない, ヒトとの接触による感染リスクも高まるため, 引き続きこれらのウイルスを注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは, ブタインフルエンザウイルス(IAV-S)に加え, 鳥やヒト由来のインフルエンザウイルスにも感染するため, 異なるウイルスに同時に感染した場合に遺伝子再集合体(A型インフルエンザウイルスの8本の分節遺伝子に組み換えが生じたウイルス)を産出することがある11)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, 北米で流行していたtriple reassortantウイルス(ブタ, 鳥, ヒトインフルエンザウイルスの遺伝子再集合体)とユーラシアで流行していた鳥型ブタ系統A(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合体である12)。A(H1N1)pdm09ウイルスは, 世界各地でブタに再侵入し, 以前から流行していたIAV-Sとの間で様々な遺伝子再集合体を産生している11)

2024/25シーズンは, 米国でA(H1N2)vウイルス, 中国でA(H1N1)vウイルス, ドイツでA(H1N1)vウイルスのヒト感染がそれぞれ1例報告されている〔ヒト感染したIAV-Sは“variant(v)virus”と総称され, 亜型の後ろにvが追記される〕3,13)

日本では2009年以降にヒトからブタに再侵入したA(H1N1)pdm09ウイルス, A(H1N1)pdm09ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルス, A(H3N2)ウイルスなどが現在も流行している14,15)。2019年にはA(H1N1)pdm09ウイルスのブタ-ヒト間の感染を疑う事例も確認され16), 引き続きIAV-Sを注視していく必要がある。

参考文献

  1. 農林水産省, 鳥インフルエンザに関する情報
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/(Accessed 2025年9月29日)
  2. León F, et al., Sci Rep 15: 29499, 2025
  3. WHO, Global Influenza Programme: Human-animal interface
    https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/avian-influenza(Accessed 2025年10月15日)
  4. Plaza P, et al., Emerg Infect Dis 30: 444-452, 2024
  5. USDA, HPAI Confirmed Cases in Livestock, Last Modified: July 23, 2025
    https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/hpai-confirmed-cases-livestock(Accessed 2025年9月29日)
  6. CDC, H5N1 Bird Flu Surveillance and Human Monitoring, Situation through August 30, 2025
    https://www.cdc.gov/bird-flu/h5-monitoring/index.html?cove-tab=1(Accessed 2025年9月29日)
  7. Shi J, et al., Cell Host Microbe 24: 558-568.e7, 2018
  8. Yu D, et al., Euro Surveill 24: 1900273, 2019
  9. WHO, Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza A viruses and development of candidate vaccine viruses for pandemic preparedness
    https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/who-influenza-recommendations/vcm-southern-hemisphere-recommendation-2022/202110_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?sfvrsn=8f87a5f1_11(Accessed 2025年9月29日)
  10. Cáceres CJ, et al., Viruses 13: 1919, 2021
  11. Ma W, Virus Res 288: 198118, 2020
  12. Garten RJ, et al., Science 325: 197-201, 2009
  13. CDC, FluView Interactive
    https://www.cdc.gov/fluview/overview/fluview-interactive.html(Accessed 2025年9月29日)
  14. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19: 1972-1974, 2013
  15. Mine J, et al., J Virol 94: e02169-19, 2020
  16. Kuroda M, et al., Zoonoses Public Health 69: 721-728,2022  

  
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
   検査診断技術研究部         
    竹前喜洋 百瀬文隆 Doan Hai Yen 久場由真仁 上野みなみ 影山 努 

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