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ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)

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(IDWR 2001年第26号)

1980年に世界保健機関(WHO)により根絶宣言が出された天然痘に続いて、WHOが根絶のために各国と協力して対策を強化している疾患である。2000年に予定していた世界的な根絶宣言は延期せざるを得なくなったが、2000年、WHO西太平洋地域では地域における根絶宣言が出され、同じくヨーロッパ地域でもまもなく根絶宣言が出されようとしており、全体的には確実に患者数の減少に向かっている。しかしながら、アフリカ、南・東アジアなどにおいては、経済的・政治的不安定を背景にして、まだまだ対策が充分に実効をあげていないことが危惧されている。

疫学

ポリオウイルスの自然宿主はヒトのみである。ポリオ流行の記載は18世紀頃からみられ、1950年代まではしばしば世界各地で流行した。しかしその後、不活化ワクチン(inactivated poliovirus vaccine:IPV)に次いで生ポリオワクチン(oral poliovirus vaccine:OPV)が開発され、定期接種されることにより多くの国でポリオ患者は激減した。WHOは、西暦2000年までに世界からポリオを根絶する計画をたて、地域流行のある国を中心にして定期のポリオワクチン接種を推進し、National Immunization Days(NIDs:一定の日に一定年齢の子どもたちに一斉にOPVを経口服用させる)を実施することによりこれらを補足、強化し、さらには、高危険地域では家庭訪問によるワクチン接種の徹底(mopping-up campaigns)を行ってきた。また、確実にポリオ様患者を捕捉するために、急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis;AFP)の発生動向調査を強化してきた。

日本におけるポリオは、1940年代頃から全国各地で流行がみられ、1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生する大流行となった。そのため1961年にOPVを緊急輸入し、一斉に投与することによって流行は急速に終息した。引き続いて国産OPVが認可され、1963年からは国産OPVの2回投与による定期接種が行われて現在に至っている。1980年の1型ポリオの症例を最後に、その後は野生型ポリオウイルスによるポリオ麻痺症例は見られていない。その後に報告されているのは全てワクチン株由来の症例(ワクチン関連麻痺:VAPP, vaccine associated paralyticpoliomyelitis)である。

本邦におけるポリオ根絶宣言のために、1998年5月1日よりポリオ様疾患の発生動向調査が行われた。この調査では、ポリオが疑われるAFP患者を診断した医師は、保健所に連絡するとともに、確定診断のための検体(糞便)を発症14日以内に2回採取することが求められた。また、日本国内でいくつかの地域を選定し、1998年1年間のAFP患者の発生調査、1999年1月から2000年3月までは、ギランバレー症候群を含めたAFP患者全員から2回糞便を採取し、ポリオウイルスが分
離されないことを確認する調査も行われ、国内のポリオ患者発生がないことが臨床的、ウイルス学的に確認され、我が国におけるポリオ根絶が国際的にも認められた。

日本が所属している西太平洋地域全体に関しては、1997年のカンボジアでの症例が最後であり、その後の1999年の中国での症例については、他国からの輸入株によるもので土着のものではないと判断され、その結果2000年10月の京都会議において、この地域でのポリオ根絶宣言がなされた。
世界全体では、根絶宣言がなされたアメリカ地域(1994年)、西太平洋地域以外に、ヨーロッパ地域でも1998年11月トルコの症例以来患者の発生が見られてなく、2001年に根絶宣言を予定している。2001年3~5月にブルガリアで2症例から1型ポリオウイルス野生株が分離されたが、今のところ輸入例と考えられている。残るはアフリカ地域、東地中海地域、南・東アジア地域である。
ポリオの流行が見られる国に関しては1999年末に30カ国であったのが、2000年末には20カ国に減少している。2002年には野生株ウイルスの伝播が断たれ、世界的な根絶宣言を2005年末に行うというのが、現在のWHOが描くシナリオである。

病原体

病原体はポリオウイルスで、エコーウイルス、コクサッキーウイルスとともにエンテロウイルス属(腸内ウイルス属)に分類される。抗原性により1型、2型、3型の3種類に分けられる。アルコールやエーテル、クロロホルム、非イオン界面活性剤では不活化されないが、熱、ホルムアルデヒド、塩素、紫外線により速やかに不活化される。

ポリオウイルスは経口的にヒトの体内に入り、咽頭や小腸の粘膜で増殖し、リンパ節を介して血流中に入る。その後に脊髄を中心とする中枢神経系へ達し、脊髄前角細胞や脳幹の運動神経ニューロンに感染し、これらを破壊することによって典型的なポリオの症状を生ずる。発症後1週間を経過すると、咽頭分泌液にはウイルスはほとんど排泄されなくなるが、糞便には数週間にわたって排泄されるので、感染源としての問題を生じる。

臨床症状

感染者の90~95%は不顕性に終わり、約5%(4~8%)では、発熱、頭痛、咽頭痛、悪心、嘔吐などの感冒様症状に終始し(不全型)、1~2%では上記の症状に引き続き無菌性髄膜炎を起こす(非麻痺型)。
定型的な麻痺型ポリオを発病するのは感染者の0.1~2%である。その場合には6~20日の潜伏期をおき、前駆症状が1~10日続いた後、四肢の非対称性の弛緩性麻痺(AFP)が出現する。この場合、特に小児における前駆症状は2相性となることが多く、初期の軽い症状の後1~7日の間隔をあけて、表在反射消失、筋肉痛、筋攣縮などの前駆徴候がみられ、その後麻痺に進展する。

しかし、全く前駆症状なくして麻痺が現れる症例もある。麻痺は下肢に多くみられ、知覚障害はみられない。麻痺型としてはこのような脊髄型が大部分であるが、球麻痺を合併して嚥下、発語、呼吸が障害されることもある。多くの場合、麻痺は完全に回復するが、発症から12カ月過ぎても麻痺あるいは筋力低下が残る症例では、永続的な後遺症を残す可能性が高い。死亡率に関しては、小児では2~5%であるが、成人では15~30%と高くなり、特に妊婦では重症になる傾向がある。球麻痺を合併した場合の死亡率は、25~75%と高率である。髄液検査では、細胞数増多(10~200/mm3)、蛋白増加(40~50mg/dl)などが見られる。

病原診断

確定診断はウイルス分離及び血清診断によるが、糞便からのウイルス分離がもっとも重要であり、血清診断は補助的である。ウイルス分離は比較的容易であるが、麻痺の出現後できる限り早い時期に検査材料(糞便など)を2回採取する必要がある。初発症状出現後、咽頭分泌液からは約1週間、糞便からは約2週間ウイルスが分離できる。髄液からウイルスを分離できれば診断的価値は非常に高いが、分離率は低い。ポリオウイルスが検出された場合は、ワクチン由来株か野生株かの鑑別が必要となる。

血清中和抗体は、急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇が認められれば診断的価値があるが、発症早期から上昇するために確定できないこともある。

治療・予防

特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。呼吸障害や分泌物喀出不全が認められる例では、気管切開、挿管、あるいは補助呼吸が必要となる。

本邦を含む多くの国々では、IPVあるいはOPVの普及により、野生株によるポリオ患者発生は殆どみられなくなった。しかし、いまだに世界的には野生型ポリオが流行ないし存在している地域がみられ、我が国への侵入も警戒する必要がある。現在のわが国での予防接種はOPVの2回投与方式であるが、世界的には3回以上の投与が一般的である。

OPVには1~3型のポリオウイルスが混合されている。3つの型の混合生ワクチンを投与しても、ある型が腸管内で先に増殖すると、干渉作用により他の型のウイルスが増殖できずに免疫が得られないことがある。厚生省流行予測調査(当時)によるポリオ中和抗体保有状況をみると、1975~1977年生まれの年齢群において低い傾向がある。この様な点から、ポリオがまだ存在する国への旅行者に対しては、ワクチンの追加投与が勧められている。また0歳代の年齢群では1型に対する抗体保有率も低いため、特にこの年齢群には注意すべきである。

OPVとIPV

OPV接種の有効性は、多くの報告から90%以上と考えられており、また世界各地で行われた一斉投与によるポリオの激減からもその効果は明らかである。ポリオワクチンによる重篤な副作用としてVAPPがある。OPVにより世界では毎年40万人もの子どもたちがポリオ罹患から救われているといわれている一方、OPV投与200~300万人に1人の割合でVAPPが出現している。米国では、初回接種で78万投与あたり、2回以降接種では600万投与あたりそれぞれ1例、我が国では400万投与あたり1例のVAPPがあり、1981~2000年の間に国内で15例が報告されている。接種者周辺における感染(vaccine contact case:VCC)も米国で640万投与あたり、我が国では530万投与あたりそれぞれ1例みられる。野生株によるポリオ患者が多い時代にはVAPPやVCCが極めて稀に発生したとしてもriskとbenefitのバランスは明らかにOPVにあるが、OPVを使用し続ける限りVAPPの問題も続くことになり、ここにIPV導入の最大の意義があるとされている。

このような背景のもと、世界全体を見るとOPVによる接種をする国が多いものの、先進国ではIPVへの移行を行った国や検討中の国が相当ある。最初にIPVを複数回投与することによって血中に中和抗体を産生させ、その後さらに複数回のOPV追加投与によって腸管免疫を与える

IPV/OPV併用方式をとる国もある。併用方式の利点は、OPV投与時にはすでに血中抗体が産生されているため、OPVウイルスは腸管で増えるだけで中枢神経へ到達することがなく、VAPPの発生を95%減少させることが出来る、というものである。しかし、IPVは注射による投与であり、手技、廃棄物、注射であるがゆえの痛みや副反応などの問題もある。ちなみに米国は1997年からIPV/OPV併用方式を導入していたが、2000年1月からは、原則としてIPV4回接種方式を採ることを決定した。

野性株によるポリオが根絶されても、ポリオウイルスが存在する限りはポリオワクチンの投与は必要であるとするのか、目前に控えた世界からの制圧をまってワクチン接種を中止するのか、移行措置を講じつつIPVの使用に踏み切るのかなど、我が国におけるポリオワクチンの今後について、世界的な流行の状況を視点においてワクチンの有効性・安全性を総合的に論じる時期となっている。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

急性灰白髄炎」は全数報告対象(2類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。
また、以下の場合も出席停止期間となる。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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