コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

結核 2023年現在

logo35.gif

結核 2023年現在

(IASR Vol. 46 p47-48: 2025年3月号)
 

結核は感染症法において2類感染症に分類される感染症である。結核患者を診断した医師は患者の発生を直ちに保健所へ届け出なければならない(届出基準: https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html)。結核患者の届出の義務化は1951年の旧結核予防法の改定により始まったが, 2007年に旧結核予防法は感染症法へと統合された。ここでは, 医師による届出を基に全国の都道府県・政令指定都市・特別区から保健所を通じて報告される結核患者の状況(2023年1月1日~12月31日)を取りまとめた2023年結核登録者情報システム(結核サーベイランス)の年報データを中心に, 最近の日本の結核患者の発生状況等について述べる。

結核登録者情報システム: 感染症サーベイランスシステムのサブシステムのひとつで, 感染症法に基づいて届出された結核患者と潜在性結核感染症治療対象者の情報が, 全国の保健所で結核登録票に登録されて入力される。

患者発生動向の概況: 図1に各年の新登録結核患者数および届出率の年次推移を示す。2023年に新たに結核と診断され届出された患者は10,096人, 人口10万対8.1であった。厚生労働省は, 2016年に「結核に関する特定感染症予防指針」(健発1125第2号)(以下, 予防指針)において, 2020年までに結核罹患率を人口10万対10.0以下にする目標値を掲げた。この目標は2021年に達成されたが, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響も考えられる。

年齢階級別の新登録結核患者数は, 2023年は2022年と比較し, 15歳以上~39歳以下までの年齢階級で増加がみられ, 特に20~29歳では265人(34.1%)の増加となり, これは主に外国出生結核患者の増加によるものである。また, 50~59歳では29人(4.0%)の増加となっている。0~14歳の小児結核は37人で, 2人(5.7%)の増加となっている。60歳以上の年齢階級では減少となっており, 減少数が最も大きかったのは80~89歳で239人(7.6%)の減少となっている。各年齢階級別で全体に占める割合は, 80~89歳が28.9%と最も大きくなっている。90歳以上の結核患者数は前年から15人の減少であったが, 全体に占める割合は14.0%と0.1ポイントの増加となっている(図2)(本号3ページ)。

患者の出生国: 2023年の新登録結核患者のうち外国生まれの者は1,619人(16.0%, 出生国不明を除く割合)であった。前年の1,214人から405人(33.4%)の大幅な増加となっている。特に, 20~29歳では外国生まれ新登録結核患者数は前年に比べて282人(46.8%)増加して884人となっており, 同年齢階級での割合は84.8%と前年から7.3ポイントの増加となっている。30~39歳においても外国生まれ新登録結核患者数は61人(22.3%)増加して334人となり, 割合は前年の54.3%から61.6%と7.3ポイント増加している。外国生まれの者の出身国別内訳は, フィリピン317人(19.6%), 次いでベトナム272人(16.8%), インドネシア231人(14.2%), ネパール229人(14.1%)となっている(本号4ページ)。

地域別罹患率: 結核患者発生の地理的分布は, 全体的には「西高東低」の傾向が続き, 同時に都市部への患者発生の集中が進んでいる(図3)。新登録結核患者数が最も多いのは東京都の1,190人で, 次いで大阪府の1,145人となっている。一方, 結核低まん延の水準である罹患率が人口10万対10.0以下の都道府県の数は, 43に達している。人口10万対届出率が最も高い都道府県は大阪府の13.1となっている。

新登録結核患者の発見の遅れ: 2023年の新登録肺結核患者のうち, 有症状の者の中で受診が遅れた(症状発現から受診までの期間が2カ月以上)患者の割合は, 19.9%となっている。このうち30~59歳の有症状菌喀痰塗抹陽性肺結核患者に限定すると, 受診が遅れた患者の割合は40.0%であった。

薬剤耐性結核: 2023年に新登録肺結核患者で培養検査陽性となった5,515人のうち, 薬剤感受性検査結果が判明した者は4,526人(82.1%)であった。残る989人(17.9%)は薬剤感受性検査未実施または結果未把握であった。薬剤感受性検査結果把握者のうち, 3,938人(71.4%)は主要4剤〔イソニアジド(INH), リファンピシン(RFP), ストレプトマイシン(SM), エタンブトール(EB)〕すべての薬剤に対して感受性のある患者であった。INH, RFP両剤に耐性である多剤耐性肺結核患者は35人(薬剤感受性検査結果把握者の0.6%)であった。INH単剤に耐性は219人(4.0%), RFP単剤に耐性のある患者は17人(0.3%)であった(本号5ページ7ページ)。

治療成績: 2022年の新登録結核患者10,216人の2023年末での治療成績は, 治癒と完了をあわせた治療成功が64.9%, 死亡27.0%, 治療失敗0.1%, 治療の脱落中断1.9%, 転出1.6%, 12カ月を超える治療4.3%, 判定不能0.2%であった。判定不能には, 薬剤耐性などにより標準治療ではない患者, 治療内容についての情報が不足している患者等が含まれる。治療成功率は, 世界保健機関(WHO)の目標である85%に達していない。その大きな要因は, 新登録結核患者の約30%が80歳以上と高齢化し, 死亡割合が高いことである。59歳以下の患者の年齢階級別の治療成功割合は82.1-89.9%となっている。

潜在性結核感染症治療対象者: 2023年に新たに登録された潜在性結核感染症の者の数は5,033人であった。そのうち日本出生者は4,002人(79.5%), 外国出生者は911人(18.1%), 不明120人(2.4%)であった。最も登録者が多かった年齢階級は70~79歳の982人で全体の19.5%となっており, 60歳以上が49.3%と約半数を占めている。潜在性結核感染症治療対象者の届出数は, 最近5年間は5,025-7,684人の間で変動している。

おわりに: 2021年に結核低まん延の水準である結核罹患率10.0以下を達成し, その後も結核低まん延の状態が継続している。しかし, 予防指針を軸とした結核対策を持続するとともに, 高齢化を続ける結核患者と若中年層での外国出生患者の増加, さらに都市部を中心とする結核患者発生の偏在化による地域間の届出率の格差の顕在化といった課題に対し, 結核サーベイランスおよびレファレンスシステムの維持・改良, 入国前結核スクリーニングの実施, 早期診断・治療完了のために国民, 長期滞在外国人, および医療関係者を対象とした教育・啓発, 接触者健診体制の充実等, 多面的対策が必要である。

 

結核において届出率(notification rate)とは, 診断された結核患者が, 各国の制度に基づいて国や地方政府に, ある一定期間に届け出された数を人口10万人当たりの率で表わしたものである。開発途上国など各国の結核対策の状況によっては患者の届出制度が未整備である場合があり, ある一定期間に実際に発生した結核患者数の人口10万人当たりの率(incidence rate, 罹患率)と届出率の間に差が生じる場合がある。

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。