百日咳の予防接種

百日咳の予防接種
(IASR Vol. 47 p3-4: 2026年1月号)はじめに
百日咳は百日咳菌による感染症で, 感染力が強く基本再生産数(R0)は12-17とされている1)。感染症法に基づく5類感染症の全数把握疾患であり, 2019年の報告では生後6か月未満(5%), 5~15歳未満の学童期(63%), 30~50代成人(16%)に集積がみられた。また, 生後6か月未満の届出の内訳は生後2か月以下の未接種児が主で, 感染源は多くが家族, 特に同胞(兄姉)であった(https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/pertussis-m/pertussis-idwrs/9463-pertussis-20200306.html)。
百日せきワクチン接種歴のある年長児以降は長引く咳が主な症状で軽症である一方, ワクチン未接種の乳児では非常に重篤となりうる。特に新生児では, 無呼吸とそれにともなう低酸素血症によるけいれん, 白血球増多, 肺高血圧症等をきたし, 致命率は3%にも上る1)。
2025年は全国で百日咳の流行がみられ, 乳児重症例, 死亡例が相次いで報告された2-4)。特に近年のマクロライド耐性百日咳菌の出現5)は, 乳児百日咳治療をより困難にしており, ワクチンによる予防の重要性が一層増して再認識されている。
国内で使用可能なワクチン
現在, 国内では百日せき含有ワクチンは5種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン:DPT-IPV-Hib), 3種混合ワクチン(DPT)の2種類がある。不活化ワクチンであり, 3回接種で高い抗体陽転率が確認されているが, 一定期間で減衰することが課題である。
DPT-IPV-Hibは添付文書上, 小児(15歳未満)が対象で接種回数は4回とされており, 以降の追加接種は原則DPTが用いられる。DPTの添付文書には, 定期接種終了後の小児への追加免疫においては標準として11歳以上13歳未満の者に0.5mLを1回接種, また, 成人は1回0.5mLを接種, と記載されている。
なお, 4種混合ワクチンは2025年に販売が終了した。
定期接種
日本の現行制度では, できるだけ早期に乳児を百日咳から守る目的で, 生後2か月の接種開始が推奨されている。従来, 接種開始月齢は生後3か月であったが, 2023年4月に変更された。初回免疫として生後2か月から20日以上あけて3回, 追加接種は初回免疫終了後標準的には6~18カ月までの間隔をおいておおむね1歳時に1回, 計4回を接種する(定期接種対象年齢は生後2か月~90か月に至るまで)。現状, 非常に高い定期接種実施率が維持されている。
任意の追加接種
2023年度感染症流行予測調査報告書(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/report/2023/12.pdf)によると, 百日咳抗体保有割合は0歳の90%以上から1歳以降下降し, 9歳を底に再び緩やかに上昇する。学童期の百日咳罹患が多いこと, および定期接種時期を考慮すると, この抗体保有割合の上昇は自然感染による抗体陽転を反映しているものと推察される。また, 2018年度の結果に比べ, 4歳以上の各年齢群で5.7-29.8%の抗体保有割合の低下が認められ, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中の自然感染機会の減少の影響が示唆された。
この学童期の百日咳予防を目的に, 日本小児科学会から就学前の1年間, 5~6歳でのDPT追加接種が推奨されている。加えて11~12歳に定期接種の2種混合ワクチン(DT)の代わりに, DPTを任意接種してもよい旨が提示されている6)。
また, 出生直後からワクチン接種可能な月齢に達するまでの間, 母体からの移行抗体による乳児百日咳予防を目的とした, 妊婦への百日せきワクチン接種が各国で導入されている。英国では2011~2012年の百日咳流行を受けて2012年に導入, 2019年に定期接種に位置づけられた(妊娠ごと妊娠20~32週での接種を推奨)。生後8週までの乳児百日咳発症, 入院および死亡に対する高い予防効果(約90%)が報告されている7)。また, 米国8)も2012年から妊娠ごと妊娠27~36週の接種が推奨されている。しかし, 各国でCOVID-19流行下において接種率低下が指摘された9,10)。
諸外国では, 妊婦接種にTdapと呼ばれる成人用3種混合ワクチン(DPTに比べ百日咳およびジフテリア毒素抗原量が減量)が用いられるが, 日本では製造販売承認されておらず, DPTを用いる(国内では妊娠28週以降の妊婦を対象に臨床試験を実施)11)。
妊娠中の接種によって, 母体自身も百日咳から守られ, 母が新生児への百日咳の感染源となる事態を防ぐ意味でも接種の意義がある。
おわりに
2025年は百日咳の流行を受けて, DPTの需要が急激に増加し, 供給量を大きく上回る事態となった。
2020年1月開催の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会では, 「乳児の重症化予防」を目的とした以下6つの案が整理された:(1)5~7歳の就学前児への追加接種, (2)11~12歳への追加接種(DTからDPTへの変更), (3)接種開始月齢を生後2か月に前倒し, (4)接種スケジュール全体の変更(生後2か月, 3か月, 1歳半, 5~7歳), (5)妊婦への追加接種, (6)妊婦の家族への追加接種12)。このうち(3)がすでに導入され, (1), (2), (5)は任意接種として実施されつつある。同審議会では案の提示とともに, 順次の検討が望ましい旨も言及された。今後, 必要なワクチンの接種を安定的に行う観点からも, 引き続きの検討が望まれる。
参考文献
- Mattoo S, et al., Clin Microbiol Rev 18: 326-382, 2005
- 谷口公啓ら, IASR 46: 42-43, 2025
- 荒木孝太郎ら, IASR 46: 41-42, 2025
- 中村祥崇ら, IASR 46: 108-110, 2025
- Feng Y, et al., Lancet Reg Health West Pac 8: 100098, 2021
- 公益社団法人日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会, 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(2025年10月改訂版)
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138 - UK Health Security Agency, Green Book Chapter 24 Pertussis https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6847354a0392ed9b784c01f0/Green_Book_on_Immunisation_Chapter_24_Pertussis_5_6_25.pdf
- CDC, Tdap Vaccination for Pregnant Women
https://www.cdc.gov/pertussis/vaccines/tdap-vaccination-during-pregnancy.html - Principi N, et al., Vaccines (Basel) 12: 1030, 2024
- Zhang X, et al., eClinicalMedicine 90: 103651, 2025
- 日本産科婦人科学会, 乳児の百日咳予防を目的とした百日咳ワクチンの母子免疫と医療従事者への接種について, 2025年4月25日
- 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会, 第49回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料, 2022
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229692.pdf
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
予防接種研究部
森野紗衣子 菊池風花 林 愛 新井 智 高梨さやか
感染症疫学センター
北村則子 鈴木 基
細菌第二部
大塚菜緒 見理 剛
