三重県と浜松市におけるOXA-48型カルバペネマーゼ産生大腸菌ST11672の検出事例

三重県と浜松市におけるOXA-48型カルバペネマーゼ産生大腸菌ST11672の検出事例
(IASR Vol. 47 p157-158: 2026年8月号)
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症は感染症法により5類全数把握疾患に指定されている。CREの主要な耐性メカニズムはカルバペネマーゼの産生であり, 日本においてはIMP型カルバペネマーゼが優勢に検出されるが, 近年はNDM型, KPC型, OXA-48型といった, かつては「海外型」と呼ばれたタイプが海外渡航歴のない患者から検出されている1)。本稿では, これまで国内で報告例のなかったmultilocus sequence typing(MLST)型であるST11672と同定されたOXA-48カルバペネマーゼ産生大腸菌(OXA-48 E. coli)を, 三重県と静岡県浜松市で検出した事例について報告する。
2023年以降, 浜松市内の医療機関よりOXA-48 E. coliによるCRE感染症の届出が2例あった2)。当該株が分離された患者は, いずれも過去数年間海外への渡航歴はなかった。本事例の最初の届出の2年後には, 三重県においても海外渡航歴のない患者からOXA-48 E. coliによるCRE感染症の届出があった。これらの症例については明確な疫学関連は認められなかった。
これらの株の全ゲノム解析を実施したところ, いずれもMLSTでST11672と同定された。そこで, 浜松市で最初に届け出された症例に由来する株と三重県の分離株について, 海外からの分離株のゲノム配列データを含めて系統解析を行った。具体的には, CFSAN SNP Pipeline 2.2.13)を用いて株間同士の一塩基多型(SNP)を検出し, それらに基づきraxml-ng 1.2.24)を用いて系統樹を作成した(図)。その結果, 両者は系統樹上で近接しておらず, また2株間のSNPs数は45であった。株間の直接の伝播を規定するSNP数について統一された見解はないが, 薬剤耐性大腸菌の解析報告例の中では, SNP数10以下5)や176)以下といった数値が採用されている。また, 比較する株間の分離年が異なっている場合には, 経年的なSNPの蓄積を考慮に入れる必要があるが, 大腸菌に関しては2.7 SNPs/年7)や4.39 SNPs/年8)といった数値が採用されている。以上のいずれの数値を採用しても, 今回の解析結果はST11672株の国内における直接の伝播を示唆するものではなかった。また, 薬剤耐性遺伝子に関しては, blaOXA-48に加えてblaCTX-M-15とキノロンに耐性を付与するgyrA, parC, およびparEの変異が, 浜松市と三重県の分離株で共通して検出された。一方で, blaOXA-1とaac(6')-Ib-crについては, 浜松市分離株でのみ検出された。
ST11672についての詳細な解析報告例はないものの, 多剤耐性のハイリスククローンと知られているST131のsingle-locus variantであり, なおかつOXA-48をコードする遺伝子(blaOXA-48)を保有している株としてデンマーク, フランス, オランダで2020~2023年に分離されたことが報告されている9)。大腸菌のデータベースであるEnterobase10)に登録されている同ST株37株(2025年10月22日時点)の分離年は2020~2025年であり, 分離地域はヨーロッパに加えて米国, オーストラリア, ベトナムとなっている。全ゲノム配列が公開されている31株について薬剤耐性遺伝子を検出したところ, 多くの株で共通してblaOXA-48(30株)とESBL遺伝子の1つであるblaCTX-M-15(27株)を保有していた。以上の特徴から, ST11672は近年世界各地で分離されつつあるblaOXA-48保有系統であると考えられ, 今後の拡散状況に注意を要する。
参考文献
- IASR 47: 52-54, 2026
- 江馬康夫ら, IASR 47: 113-115, 2026
- Davis S, et al., PeerJ Comput Sci 1: e20, 2015
- Kozlov AM, et al., Bioinformatics 35: 4453-4455, 2019
- Roer L, et al., J Antimicrob Chemother 72: 1922-1929, 2017
- Ludden C, et al., Lancet Microbe 2: e472-e480, 2021
- hite RT, et al., Nat Commun 15: 1371, 2024
- Ben Zakour NL, et al., mBio 7: e00347-16, 2016
- Kohlenberg A, et al., Euro Surveill 29: 2400727, 2024
- EnteroBase
https://enterobase.warwick.ac.uk/
三重県保健環境研究所
大市真梨乃
浜松市保健所感染症対策課
江馬康夫 秦 なな
浜松市保健環境研究所
鈴木麻希
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
薬剤耐性研究センター
菅原 庸 中野哲志 鈴木里和
