インフルエンザウイルス流行株 抗原性解析と遺伝子系統樹 2025年 7月 3日
公開日:2025年 7月 3日

国立感染症研究所
インフルエンザ研究センター第1室
全国地方衛生研究所
遺伝子系統樹
国立感染症研究所インフルエンザ研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。
2024/2025シーズン系統樹(データ更新日:2025年 7月 3日)
インフルエンザウイルスは、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B Victoriaいずれも遺伝子的に多様化が進んでおり、HA遺伝子系統樹内の集団に対しクレード/サブクレード名が付けられている。[参考: influenza-clade-nomenclature(https://github.com/influenza-clade-nomenclature)]。なお、クレード/サブクレード名は流行ウイルスの変化に合わせて追加・変更されるため必要に応じ上記リンク先にて確認することをお勧めする。
A(H1N1)pdm09
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹(図1, PDF:171KB)において、C.1 (K54Q, A186T, Q189E, K308R)クレード内の C.1.9 (T120A, K169Q)またはD (T216A) (代表株A/Victoria/4897/2022)サブクレードに属している。C.1.9内には、サブクレードC.1.9.1 (P137S)、C.1.9.2 (N38D, K480R)、C.1.9.3(S83P, I510T)、C.1.9.4 (Q54K, D86N, N125D, I149V)が、D内には、サブクレードD.1 (R45K)、D.2 (R113K)、D.3 (T120A, I372V) 、D.4 (T120A)、D.5 (R45K)が派生しており、世界的にはC.1.9、C.1.9.3、D.3が主流となっている。2024/2025シーズンの解析株(2025年6月30日時点:国内253株)のうち58.9%がC.1.9.3 、27.3%がC.1.9、7.1%がD.3に属した。
A(H3N2)
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹(図2, PDF:171KB)において、クレードG.1 (H156S) に属している。G.1内ではさらにJ (I140K, I223V)、J.1 (I25V, V347M)、J.1.1 (S145N)、J.2 (N122D, K276E)、J.2.1 (F79L, P239S)、J.2.2 (S124N)などが派生しており、世界的にはJ.2、J.2.1、J.2.2が主流である。2024/2025シーズンの現時点での解析株(国内112株)ではJ.2.2 (63.4%)、J.2 (35.7%)であった。
B (ビクトリア系統)
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹(図3, PDF:170KB)において、成熟HAに3アミノ酸欠損をもつクレードA.3(162-164アミノ酸欠損、K136E)中のクレードC(A127T、P144L、K203R)に属している。クレードC内にはC.5 (D197E)などが派生しており、更にC.5.1 (E183K)、C.5.6 (D129N)、C.5.7 (E183K, E128G)などが派生している。世界的にはC.5.1、C.5.6、C.5.7が主流である。2024/2025シーズンの現時点での解析株(国内58株)では C.5.7 (48.3%)、C.5.6 (25.9%)、C.5 (12.1%)、C.5.1 (10.3%)である。
B (山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。