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IDWR 2024年第41号<注目すべき感染症> 腸管出血性大腸菌感染症

IDWRchumoku 注目すべき感染症 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。

腸管出血性大腸菌感染症 2024年第1~41週(2024年10月16日現在)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、Vero毒素(Vero toxin:VTまたはShiga toxin:Stx)を産生するEHECによって起こり、発症した場合の主な症状は腹痛、水様性下痢および血便である。EHEC感染に引き続いて重篤な合併症として発症することがある溶血性尿毒症症候群(HUS)は、死亡あるいは腎機能障害や神経学的障害などの後遺症を残す可能性があり、脳症を併発することもある。EHECはウシ等の家畜が腸管内に健康保菌しており、と畜処理や食肉処理の過程等で食材や調理器具が汚染され、食品の洗浄や加熱等の適切な取り扱いが充分でない場合等に経口的に感染するほか、保育園等の施設においては感染者からの接触感染も起こる。これまでに国内でEHECの感染事例の原因食品等と特定あるいは推定されたものには、牛肉、牛生肉、牛レバー刺し、ハンバーグ、サラダ等がある。

EHEC感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)により、全数把握対象である三類感染症に位置づけられており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられている。毎年、3,000~4,000例程度が報告されており(2020年3,094例、2021年3,243例、2022年3,370例、2023年3,834例)、例年、夏期に報告数のピークが見られる傾向にある。2024年のEHEC感染症報告数(第41週時点)においても、診断週で第20週から増加し始め、第27週で2024年の最多(154例)に達した。第41週は129例であった。本年第41週までの累積報告数2,985例は、2020~2024年の各年同週までの累積報告数を比較すると、2番目に多い報告数であった(2020年2,418例、2021年2,566例、2022年2,795例、2023年3,045例)。また、患者(有症状者)のみに限定した本年第41週までの累積報告数は1,900例であり、2020~2024年で3番目に多い報告数となっている(2020年1,593例、2021年1,662例、2022年1,920例、2023年2,052例:以上、各年同週まで)。性別では、男性が1,256例(42.1%)、女性が1,729例(57.9%)で、年齢中央値28歳(範囲0~105)であった〔男性:25歳(0~105)、女性:31歳(0~101)〕。患者(有症状者)のみに限定すると、年齢中央値24歳(範囲0~105)であった。第1~41週の累積報告数を推定感染地域別にみると、東京都(208例)が最も多く、次いで大阪府(125例)、群馬県(122例)、福岡県(94例)、北海道(91例)の順で上位を占めた(重複含む)。なお、推定感染地域が国外と報告された症例は188例(EHEC感染症累積報告数の6.3%)であり、韓国(143例)、ベトナム(13例)、中国(4例)、フィリピン(4例)、ネパール(4例)の順で上位を占めた。第41週時点までに報告されたEHEC感染症のうち、血清群・毒素型の情報が明らかであった報告の内訳は、O157 VT1・VT2(709例)、O157 VT2(708例)、O26 VT1(315例)、O103 VT1(173例)等であった(重複あり)(以上、暫定値)。

EHEC感染症の重篤な合併症として発症することのあるHUSは、第41週までに累計57例〔うち女性41例(71.9%)〕が報告された。届出時点で患者(有症状者)報告数に占めるHUS発症者の割合は、3.0%であった。直近5年間の同週までのHUSの累積報告数と届出時点で患者(有症状者)報告数に占めるHUS発症者の割合は2019年58例(2.7%)、2020年50例(3.1%)、2021年45例(2.7%)、2022年40例(2.1%)、2023年50例(2.4%)である。2024年第1~41週のHUSの年齢中央値は5歳(範囲1~86)であった〔男性:5歳(1~11)、女性:11歳(1~86)〕。年齢群別では0~9歳が34例で、HUS症例全体の59.6%を占めた。例年同様、女性と低年齢の小児で発症が多く報告されている。判明した血清群別ではO157が36例で、そのうち、O157 VT2は20例、O157 VT1・VT2は9例であった。EHEC感染症届出時点における脳症の発症は6例(うち5例でHUS発症)であった。

なお、第41週までには届出時点で死亡の情報が得られた症例はない。

2024年もEHECによる食中毒が報告されている。こうした食中毒の予防のためには、食肉の十分な加熱処理、食材・調理器具の十分な洗浄や手洗いの励行などの徹底、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないようにすることが重要である。EHECを死滅させるには、食品の中心温度について75℃で1分間以上の加熱が必要である。また、焼く前の生肉などに使用する箸などの調理器具の使い分けなどについて、継続した啓発が必要と考えられる。

以前から、韓国はEHEC感染症の国外推定感染地域として多く報告されている。2018年以降に診断された症例で、感染地域が韓国と報告されたものは2024年第41週時点で322例で、その推移は、2018年30例、2019年53例、2020年0例、2021年0例、2022年4例、2023年92例、2024年は第41週時点で143例と、新型コロナウイルス感染症の流行により渡航が制限されていた2020年から2022年を除くと、増加傾向が見られる。また、例年、報告数は国内推定感染地域の症例と同様に夏に増加して冬に減少しているが、各年の診断月別の報告数のピークは、2018年7例(5月および7月)、2019年12例(7月)、2023年23例(9月)、2024年45例(9月)と、こちらも増加傾向が見られる。2018年以降の推定感染地域が韓国と報告された322例の基本属性としては、年齢中央値が25歳(範囲7~79)、性別は男性84例(26.1%)、女性238(73.9%)と、若年そして女性の多い傾向が見られる。また、感染原因については経口感染が306例と9割以上を占め、具体的な食品名としてユッケや生レバー等の生の食肉の喫食歴が報告された症例は233例であった。血清群はO157が196例、O26が43例、O103が29例等(重複含む)であった。重症例としては、3例がHUSを発症したことが報告されている。

生食用牛肉の提供の法規制はその国や地域によって変わると考えられるが、加熱不十分な牛肉にはEHEC感染のリスクがある。HUS発症者も確認されている状況を考えると、渡航先に関わらず、旅先での生食用食肉の摂取は避けることが重要であると考えられる。なお、2024年10月現在、日本人の主要な渡航先国としては、韓国が最多であり、新型コロナウイルス感染症の流行後、増加傾向にある(2024年8月の各国のデータ:https://www.tourism.jp/tourism-database/stats/outbound/(外部サイトにリンクします))。

また、保育等施設においてEHEC感染症の集団発生が毎年報告されている。日ごろから、食品の適切な取り扱いや、下痢などの症状のある子どもは登園を控えることが重要である。無症状の場合もあるため、接触感染予防として、オムツ交換時の手洗い・消毒、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、低年齢児が使用する簡易ミニプールには排泄物の汚染が拡がらないように十分注意し、必要に応じ使用水や器具を塩素消毒することが重要である。過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の十分な手洗いや消毒が必要である。

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい(引用日付2024年10月16日):

国立感染症研究所 感染症疫学センター

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