IASR 46(1), 2025【特集】魚介類を介する寄生虫症 2024年現在
(IASR Vol.46 p1-2:2025年1月号)
日本では寿司や刺身などの生魚介類を食べる習慣が広く根付いており、時には鳥獣肉を加熱せずに摂取することもある。このような食習慣が原因で、「蠕虫」(多細胞の寄生虫)や「原虫」(単細胞の寄生虫)に感染する事例がみられる。
1997年、食品媒介の寄生虫性疾患に関する通知が厚生労働省(厚労省)から発出された。その後、1999年には食中毒事件票における病因物質「その他」の項目に「アニサキス等」が追加され、さらに2012年には食品衛生法施行規則が一部改正され、「クドア」、「サルコシスティス」、「アニサキス」、「その他の寄生虫」が食中毒の病因物質として個別に分類された。そのため、2013年からそれらの疾患は食中毒統計の病因物質として個別集計されている。また、「その他の寄生虫」には、肺吸虫(本号9ページ)、旋尾線虫、条虫などが例として挙げられている。
厚労省の食中毒統計(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html(外部サイトにリンクします))によると、食中毒の総事件数は2007年からほぼ横ばいであるが、アニサキス食中毒は増加傾向にあり、2013年の88件から2023年には432件に増加した(図1)。さらに、ここ5年では事件数はノロウイルスやカンピロバクターを上回り、食中毒事件数の第1位である(図2)。2017年ごろから増加した背景には、著名人の感染報道による知名度向上や医師の認識向上、流通やグルメ化の進展による生食の多様化があると考えられる。感染源も変化し、2018年は温暖化による黒潮の変化で漁獲量が増加したカツオが主な原因魚となった(本号3ページ)。
また、魚介類を介する寄生虫症にはアニサキス以外にも多様な原因寄生虫が存在する。
主な疾患の感染経路と症状
魚介類を介して感染する寄生虫には、アニサキス、顎口虫、旋尾線虫、日本海裂頭条虫、横川吸虫、肝吸虫、クドアなどが含まれ、生食や不適切な調理が主な感染経路である。日本では刺身や寿司文化が浸透しており、前述したように、特にアニサキス症の報告が多い。
アニサキス症は、アニサキス属やシュードテラノーバ属に属する線虫が原因となり発生する食中毒で、非加熱の魚を使った食品を通じて感染する。厚労省は2014年5月に注意喚起を行い、各自治体もアニサキス食中毒の予防対策を進めている(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000057172.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:396KB))。アニサキス食中毒はアジ、サバ、イカなどに寄生する幼虫がヒトの胃壁や腸壁に侵入して発症し、胃アニサキス症は喫食後12時間以内に激しい腹痛や吐き気、嘔吐を引き起こす。また、過敏反応としてアレルギー症状が出ることもあり、患者数は増加傾向にある(本号4ページ)。
一方、顎口虫はライギョやドジョウを介して感染する。他にも輸入ヘビの生食による症例も報告されている。喫食後12時間以内に発症するアニサキスと違い、顎口虫症は潜伏期間が長く、さらに寄生虫が皮膚や臓器を移動するため、寄生先に応じた様々な症状が生じるのが特徴である。多くはかゆみ程度であるが、時として強い痛みをともなう皮膚爬行症と呼ばれる病態が出現する。皮膚以外に迷入すると、目では失明、咽頭では咽頭浮腫による呼吸困難、頭蓋では中枢神経症状をきたす。最近の顎口虫症の注目すべき事例として、青森県での初確認が挙げられる。この事例では、生シラウオの摂取が原因とみられる顎口虫症が約130人に確認された。感染者には皮膚爬行症や激しいかゆみといった症状がみられたが、多くの患者が軽症であった。感染源となった可能性が高いシラウオについて調査が行われたが、顎口虫の幼虫は検出されなかった。それでも、生食や不適切な調理が感染リスクを高めることが再度認識され、シラウオを摂取する際には加熱調理や冷凍処理が推奨されている。この事例を受けて、地域や医療機関では感染予防策の啓発が進められた(本号6ページ)。
旋尾線虫はホタルイカやスルメイカなどを生食することで感染し、感染すると1~2日以内に嘔吐や腹痛をともなう急性腹症を引き起こす。腹壁に移動すると、喫食1~4週後に皮膚爬行症によるみみずばれの症状が出現する。日本海側での報告が多く、特にホタルイカのシーズンである春~夏にかけて症例が増加する傾向がある(本号7ページ)。
日本海裂頭条虫はサケ・マスを生食することで感染し、下痢や腹痛を引き起こす。これまで日本などアジア産のサケ・マスに寄生すると考えられていた日本海裂頭条虫であるが、2013年にはアラスカ産のサケからこの裂頭条虫が検出される事例が報告された。これは米国疾病予防管理センター(CDC)が確認したもので、今ではサケ・マスの生食文化がある地域では、どこでも感染のリスクがあるとされている(本号8ページ)。
横川吸虫や肝吸虫は淡水魚を介して感染し、胆管や肝臓に炎症を引き起こす。特に肝吸虫は胆汁の流れを妨げ、慢性炎症をもたらすことがある(本号10ページ)。
Kudoa septempunctataによる食中毒では、生食用ヒラメが主な原因食品で、喫食後4~8時間以内に下痢や嘔吐、腹痛を引き起こす。感染を予防するため、冷凍・加熱はもちろん、ヒラメ養殖業者では出荷前のモニタリングや飼育環境の改善が進められている。一方、2021年に発生したKudoa iwataiに関連した事例では、スズキやサワラが原因食品と考えられた。クドアは魚の筋肉内に目視可能なシストを形成し、特に症状が重い場合、回復に数日を要するケースも確認されており、調理従事者の啓発と注意深い目視検査が重要とされている(本号12ページ)。
このように、魚介類を介する寄生虫症とひとことで言っても、寄生虫種によって症状は様々である。
予防と対策
魚介類を介する寄生虫症の予防には、加熱や適切な冷凍処理が有効である。生食用魚介類に対し-20℃で24時間以上の冷凍処理が推奨され、これにより多くの寄生虫が不活化される。また、アニサキスは肉眼での検査や除去も行われるが、完全に取り除くのは難しい。家庭では、70℃以上での加熱調理や冷凍処理が推奨される。消費者へのリスク啓発も重要で、生食文化が根付く日本では特に必要とされる。最近では、UV-LEDライトを用いたアニサキス検出法が開発されているが、筋肉に深く入り込んだ幼虫の検出には限界があり、適切な方法の選択が求められる。
終わりに
本特集号では、原因魚種の変化によるアニサキス症の最新の動態(本号3ページ)、近年話題となっているアニサキスアレルギーについての現状(本号4ページ)、他にも2022年に青森県で集団感染がみられた顎口虫症(本号6ページ)、そして、加熱不十分な食肉やネコの糞便を介して感染するトキソプラズマが、近年クジラ肉も感染源となる可能性が示唆されており(本号13ページ)、各疾患の最新情報を概説する。
魚介類を介する寄生虫症は、日本における食の安全に関わる重要な課題である。厚労省の食中毒統計が示すように、特にアニサキス食中毒の報告事件数が多く、食品の取り扱い方法や衛生管理の徹底、消費者教育を通じて、寄生虫症のリスク低減が図られることが期待される。また、今後も寄生虫症の発生動向や予防対策についての調査・研究が不可欠である。生食文化を持つ日本において、食品の安全性確保のための包括的な取り組みが引き続き求められている。