病原体検査に基づくマクロライド耐性百日咳菌感染症の治療への取り組み

病原体検査に基づくマクロライド耐性百日咳菌感染症の治療への取り組み
(IASR Vol. 47 p10-12: 2026年1月号)
近年, 諸外国においてはマクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の台頭が目立ってきたものの1,2), 国内ではこれまで散発的な報告にとどまっていた3-5)。一方で, 2024年に入り全国各地でMRBPの報告が相次ぐ危急的事態となっている6-8)。
今回, 我々は百日咳流行の端緒からマクロライド系抗菌薬の臨床的効果が顕著に認められない症例を経験し, 耐性株の出現を強く懸念して病原体検査に基づく治療に取り組んだ。
滝川市立病院では, 2024年6月~2025年9月までの期間に百日咳疑い147例を検査し51例を百日咳と診断した。年齢中央値は11.3〔四分位範囲(IQR):8.5-13.7〕歳であった。147例のうちPCRは138例で実施し, 23例(16.7%)で陽性となった。PT抗体価の測定は133例に実施し, 単血清高値11例(8.3%), ペア血清有意上昇が5例(3.8%)であった。陽性確定者との疫学的リンクを有する臨床決定例は11例であった。培養検査は118例に実施し, 17例(14.4%)で百日咳菌を分離した。
百日咳と診断した51例には, まずマクロライド系抗菌薬の投与を原則としたが, そのうち20例(39.2%)はマクロライド系抗菌薬投与でも臨床症状が改善せず, スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)への変更を要した。ST合剤を投与した20例中6例(30.0%)は, 薬疹が疑われたためST合剤を中止した。薬疹出現までの日数の中央値は9.5(IQR:8.25-10)日であった。
百日咳菌17株は23S rRNA遺伝子のシーケンス解析, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)遺伝子型別およびETEST®によるマクロライド系抗菌薬への薬剤感受性試験の結果, いずれもMLVAタイプ(MT)28-MRBPと判断された(表)。
MRBP感染17例のうち, 16例ではマクロライド系抗菌薬により初期治療を開始し, 8例では自然軽快した。7例では, ST合剤に切り替えることで症状軽快を認めた。1例では, 当初からST合剤を使用した(先に同胞のMRBP発症が判明していた)。ST合剤を要した症例の中で呼吸困難感が強かった2例ではステロイド静注ならびにミノサイクリン(MINO)静注を併用した。別の2例では, マクロライド系抗菌薬とMINOの内服を併用した。マイコプラズマ感染を併発した幼児1例では, トスフロキサシンも使用した。MINOを歯牙形成期にある8歳未満の小児に投与した場合, 歯牙の着色・エナメル質形成不全や, 一過性の骨発育不全を起こすことがあるため投与を避けるべき9)とされており, 本研究でもMINOは8歳以上の症例に限定して使用した。
病原体検査に基づく治療を目指したが, 百日咳菌の培養には相当な時間を要するため, 薬剤感受性試験に基づく耐性評価は容易ではない。また, 病院検査室では耐性遺伝子変異の迅速同定も実施が困難である。そこで, 抗菌薬を切り替えるための指標として小児百日咳の臨床症状に基づく重症度評価であるModified Preziosi Scale(MPS, 7点以上が重症)10,11)を用いた治療効果の評価を試みた(図, 補足表)。百日咳菌感染の全51例のMPS推移をみると, 初診時にMPS 4.5以上の評価であった症例が, 抗菌薬投与5日目にMPS 3.0未満に低下していることが有効性の目安となりそうであった(図A)。MRBP感染17例のうち9例では, マクロライド系抗菌薬を5日間投与してもMPSはほとんど変動しなかったが, ST合剤もしくはMINOへの切り替えによりMPSが低下していた(図B)。MRBP分離株の薬剤感受性試験でもMINOへの感受性が確認されており, 薬疹の出現などによりST合剤が使用できない場合には, 8歳以上であればMINO選択の可能性もあり得ると考えられた。一方, MRBP感染症に対する治療であっても, およそ半数(8例/17例)はマクロライド系抗菌薬使用により症状の軽快が可能であった。この現象はマクロライド耐性肺炎マイコプラズマの治療でも同様のことが報告されており, マクロライド系抗菌薬の持つ抗炎症作用や免疫調節作用が影響したのかもしれない12)。百日咳治療に際しては, まずはマクロライド系抗菌薬投与から開始し, MRBPの同定または臨床的不応の所見から, 機を逃さずに適切なタイミングでST合剤への変更をためらわないことが重要であると考えられた。
当院では, 院内検査室で多くの百日咳菌分離および抗菌薬感受性試験を実施することができ, これは治療方針の決定に大きく役立つものであった。グローバル化が加速する現代において, すでに日本国内にMRBPが広まっていることが想定されることから, 病原体検査に基づく適切な治療が重要である。また, MPSの臨床的有用性についても引き続き検討していきたい。
謝辞:百日咳菌分離株の耐性遺伝子変異の同定, MLVA遺伝子型別を実施していただきました国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所・細菌第二部の先生方に深謝いたします。
参考文献
- Yang Y, et al., PLoS One 10: e0138941, 2015
- Feng Y, et al., Lancet Reg Health West Pac 8: 100098, 2021
- Yamaguchi T, et al., JJID 73: 361-362, 2020
- Koide K, et al., J Glob Antimicrob Resist 31: 263-269, 2022
- Koide K, et al., Microbiol Resour Announc 11: e0071822, 2022
- 荒木孝太郎ら, IASR 46: 41-42, 2025
- 谷口公啓ら, IASR 46: 42-43, 2025
- 上田 豊ら, IASR 46: 43-45, 2025
- KEGG, 医療用医薬品:ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン錠50mg他)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062327(2025年12月19日アクセス) - Gill CJ, et al., Clin Infect Dis 63: S154-S164, 2016
- Desjardins M, et al., Can Commun Dis Rep 44: 190-195, 2018
- Ding G, et al., Eur J Pediatr 183: 3001-3011, 2024
滝川市立病院
小児科
松本日出男 平木雅久 黒澤洋一
臨床検査科
斉藤友樹 工藤結香 阿部 隆
