沖縄県におけるマクロライド耐性百日咳菌の浸潤状況とゲノム解析

沖縄県におけるマクロライド耐性百日咳菌の浸潤状況とゲノム解析
(IASR Vol. 47 p13-14: 2026年1月号)
百日咳は, 百日咳菌(Bordetella pertussis)によって起こる急性の気道感染症である。沖縄県における百日咳届出数は, 2020~2023年は過去最多であった2019年に比べ低く推移していたものの, 2024年の第38週以降届出の増加がみられ, 2024年は年間累計85件, 2025年には第46週までに年間累計1,037件が届出されている。百日咳菌の治療にはマクロライド系抗菌薬が第一選択薬であるが, 近年マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の出現が問題視されている。日本では, 2018年に東京都および大阪府でMRBPが初めて検出されて以降検出されていなかったが, 2024, 2025年に東京都, 大阪府, 茨城県, 鳥取県, 沖縄県から相次いで検出された1-6)。今回, 沖縄県における百日咳菌のマクロライド耐性率やMRBPの遺伝的系統について報告する。
2024年11月~2025年6月までに沖縄県内66の医療機関から届出のあった105症例から鼻腔スワブを収集した。そのうち, 鼻腔スワブ101検体からDNeasy Blood&Tissue Kitを用いてDNAを抽出し, real-time PCRにより百日咳菌の有無を確認し, 百日咳菌遺伝子陽性検体について23S rRNAシーケンシングによるマクロライド耐性変異検出を実施した。加えて, 鼻腔スワブ104検体をCEX加Bordet-Gengou培地に接種し, 36℃にて最大7日間培養後, 疑わしいコロニーからボイル法によりDNAを抽出し, 前述同様, 百日咳菌同定およびマクロライド耐性変異検出を実施した。得られた百日咳菌株はすべて, DNeasy Blood&Tissue KitによりゲノムDNAを抽出し, QIAseq FX DNA library UDI Kitを用いてライブラリを作製し, iSeq100によりシーケンシングを実施した。得られたリードをShovill 1.1.0にてアセンブル後, checkm 1.2.2にてcompleteness>99%, contamination<1%を確認した。得られたリードデータはSNPCasterを用いて, core genome single nucleotide polymorphism(cgSNP)解析を実施し, Tohama Iをリファレンス配列として系統樹を作成した(図)。
臨床検体101検体中96検体から百日咳菌遺伝子が検出された。百日咳菌遺伝子陽性96検体の23S rRNAシーケンシングを実施したところ, 96検体中77検体(80.2%)は変異型, 5検体(5.2%)は野生型と判定され, 14検体(14.6%)は23S rRNAの増幅が認められず, 判定不能であった。
104検体中65検体(62.5%)から百日咳菌が分離された。ゲノム解析により, 62株がMRBP, 3株がマクロライド感受性百日咳菌(MSBP)と同定された。このうち, MRBP 20株, MSBP 2株の薬剤感受性試験をETEST®エリスロマイシンで実施したところ, MRBP20株の最小発育阻止濃度(MIC)はすべて>256 μg/mLであり, MSBP2株は0.023-0.064 μg/mLであった。この22株の薬剤感受性試験結果とゲノム解析による23S rRNA変異の有無はすべて一致した。
本研究で分離された百日咳菌65株と, 公共データベースに登録されていた中国(2016年:BP7, 2022年:P745), 日本〔2018年:BP616(大阪府), BP625(東京都)〕, フランス(2024年:FR7302)のMRBPおよび中国で分離されたMSBP2株のゲノム情報を入手し, cgSNP解析により比較した(図)。本研究で分離されたMRBP 62株は最大10 SNPs以内の比較的近縁な4系統(Cluster 1-4)に分類され, その大部分(47株, 75.8%)がCluster 1に分類された。本研究のMRBPは2018年に分離された東京都, 大阪府のMRBPと系統が大きく異なっており, Cluster 3は2024年のフランス株, Cluster 4は2022年の中国株と遺伝的に近縁であったが, Cluster 1と2は登録株に遺伝的系統が近い株が存在しない系統であった。
沖縄県において検出される百日咳菌のマクロライド耐性率は非常に高かった。しかし, 今回の検証では, 抗菌薬投与歴の情報を求めなかったため, マクロライド系抗菌薬投与後に採取した検体は除外しておらず, 耐性率は過大評価になっている可能性は否定できない。ゲノム解析において, MRBPは遺伝的に異なる4系統が県内で伝播拡散していることが明らかとなった。MRBPの伝播経路の推定や日本全体の拡散状況を把握するために, 今後, 積極的な菌株収集およびゲノム解析が重要である。なお, 本研究におけるゲノム情報は公的データベースに登録した(BioProject No. PRJDB20292, PRJDB20413, and PRJDB37898)。また, 各Clusterの代表株を国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所細菌第二部へ分与し, ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)へ寄託した。
参考文献
- 荒木孝太郎ら, IASR 46: 41-42, 2025
- 谷口公啓ら, IASR 46: 42-43, 2025
- 上田 豊ら, IASR 46: 43-45, 2025
- 中村祥崇ら, IASR 46: 108-110, 2025
- Iwasaki T, et al., J Infect Chemother 31: 102727, 2025
- Kakita T, et al., JJID 10: 7883, 2025
沖縄県保健医療介護部
衛生環境研究所感染症研究センター
北部保健所健康推進班
中部保健所健康推進班
南部保健所健康推進班
宮古保健所健康推進班
八重山保健所健康推進班
地域保健課
那覇市保健所保健総務課
