インフルエンザウイルス流行株 抗原性解析と遺伝子系統樹 2026年 5月 1日
公開日:2026年 5月 1日

国立感染症研究所
インフルエンザ研究センター第1室
全国地方衛生研究所
流行株抗原性解析
国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。
流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。
現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。
2025/2026シーズン抗原性解析結果(データ更新日:2026年 5月 1日)
A(H1N1)pdm09(図1)(PDF:240KB)
2025年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施した結果、解析した多くの株は、2025/26シーズンのWHOワクチン推奨株である細胞分離株 A/ウィスコンシン/67/2022および卵分離株 A/ビクトリア/4897/2022に対するフェレット感染血清と良好な反応性を示した。一方、これらワクチン推奨株の細胞分離株および卵分離株の両方の血清に対して反応性が大きく低下した株では、その大部分においてHA抗原部位にG155Eのアミノ酸置換が認められた。なお、1株についてはK156Nのアミノ酸置換が認められた(図1 前半)。
また、2025年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株については、解析した全ての株が、ワクチン推奨株の細胞および卵分離株に対するフェレット感染血清と良好な反応性を示した(図1 後半)。
A(H3N2)(図2)(PDF:263KB)
2025年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施した。その結果、解析した多くの株は、2025/26シーズンのWHOワクチン推奨株である細胞分離株 A/ディストリクトオブコロンビア/27/2023と卵分離株 A/クロアチア/10136RV/2023に対するフェレット感染血清と比較的良好な反応性を示した。一方、ワクチン推奨株の細胞および卵分離株の双方の血清に対して反応性が著しく低下した株では、HA抗原部位にN158K, K189R(HA遺伝子サブクレードJ.2.3)あるいはT135K, K189R(HA遺伝子サブクレードJ.2.4)のアミノ酸置換が認められた(図2 前半)。
これに対し、2025年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株の抗原性解析では、解析したほとんどの株において、ワクチン推奨株の細胞および卵分離株に対するフェレット感染血清との反応性が著しく低下していた。これらの株の大部分は、HA遺伝子がサブクレードKに属し、一部の株はサブクレードJ.2.4に属していた。サブクレードKに共通して認められたHA抗原部位のアミノ酸置換(T135K、S144N、N158D、I160K、Q173R、K189R)が、ワクチン推奨株との抗原性の違いに寄与している可能性が考えられた(図2 中間)。
一方、多くの流行株は、サブクレードKに属する A/東京/EIS13-355/2025(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清と良好な反応性を示した(図2 後半)。
B(ビクトリア系統)(図3)(PDF:324KB)
2025年2月から8月までに分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施した結果、解析した多くの株は、2025/26シーズンのWHOワクチン推奨株である B/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清と良好な反応性を示応した(図3 前半)。
一方、2025年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した株の半数以上において、ワクチン推奨株の細胞および卵分離株に対するフェレット感染血清との反応性の低下が認められた。反応性が低下した株の多くは、HA遺伝子がクレードC.3(最近C.3.3に変更)に属し、一部はC.3.1に属していた。これらの株はHA抗原部位にD197Nのアミノ酸置換が共通して認められ、この置換に伴う糖鎖の付加が、ワクチン株との抗原性の違いに寄与している可能性が考えられた(図3 中間)。
また、解析した全ての株は、C.3.1に属する細胞分離株 A/神奈川/AC2414/2025に対するフェレット感染血清と良好な反応性を示した。一方で、多くの株は、同じくC.3.1に属する卵分離株 A/東京/EIS13-175/2025に対するフェレット感染血清とは大きく反応性が低下した。この反応性低下は、卵分離の過程においてHA抗原部位にT199Iのアミノ酸置換が生じ、その結果として糖鎖が脱落したことによるものと考えられた(図3 後半)。
B(山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。
遺伝子系統樹
国立感染症研究所インフルエンザ研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。
2025/2026シーズン系統樹(データ更新日:2026年 5月 1日)
インフルエンザウイルスは、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B Victoriaいずれも遺伝子的に多様化が進んでおり、HA遺伝子系統樹内の集団に対しクレード名が付けられている。[参考: influenza-clade-nomenclature(https://github.com/influenza-clade-nomenclature)]。
クレード/サブクレード名は流行ウイルスの変化に合わせて追加・変更されるため、必要に応じ上記リンク先にて確認することをお勧めする。
A(H1N1)pdm09(図1)(PDF:240KB)
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹のC.1.9 (T120A, K169Q)サブクレード内のC.1.9.3 (S83P, I510T)、またはD (T216A)(代表株A/Victoria/4897/2022)サブクレード内のD.3.1 (I460T, V520A)に属している。また、D.3.1 内にはD.3.1.1 (R113K, A139D, E283K, K302E)が派生している。世界的にはD.3.1.1、D.3.1が流行の主流となっている。2025/2026シーズンの解析株(2026年4月17日時点: 国内27株)は全てD.3.1であった。なお、2026/27北半球シーズンのWHO推奨ワクチン株(卵分離株)にはサブクレードD.3.1のA/Missouri/11/2025株が選定されている。
A(H3N2)(図2)(PDF:172KB)
最近の流行株は、HA遺伝子系統樹上のサブクレードJ.2 (N122D, K276E)(代表株A/Croatia/10136RV/2023)に属しており、さらにJ.2.1 (F79L, P239S)、J.2.2 (S124N)(代表株A/Perth/722/2024)、J.2.3 (N158K, K189R, S378N)、J.2.4 (T135K, K189R)、K (J.2.4.1) (K2N, S144N, N158D, I160K, Q173R, T328A, S378N)などが派生している。世界的にはKが流行の主流であり、J.2.4、J.2.3も検出された。2025/2026シーズンの解析株(2026年4月17日時点: 国内275株)ではK (97.1%)、J.2.2 (1.8%)、J.2.4 (1.1%)であった。なお、2026/27北半球シーズンのWHO推奨ワクチン株(卵分離株)にはサブクレードKのA/Darwin/1454/2025が選定されている。
B (ビクトリア系統)(図3)(PDF:181KB)
近年のウイルスは、成熟HAに3アミノ酸欠損をもつクレードA.3(162-164アミノ酸欠損、K136E)中のクレードC(A127T、P144L、K203R)(代表株B/Austria/1359417/2021)に属している。クレードC内のC.3にはC.3.1 (D197N)、C.3.2 (Y179H, D197N, S208P)、C.3.3 (S208P, D197N, S255P, I267V)が新たに派生しており、また、C.5 (D197E)にはC.5.1 (E183K)、C.5.6 (D129N)、C.5.6.1 (T37I, E128D, T199A)、C.5.7 (E128G, E183K)などが派生している。世界的にはC.5.6、C.5.6.1、C.3.1、C.3.3が流行している。2025/2026シーズンの解析株(2026年4月17日時点: 国内82株)ではC.3.3 (80.5%)、C.5.6 (9.8%)、C.5.6.1 (8.5%)であった。なお、2026/27北半球シーズンのWHO推奨ワクチン株(卵分離株)にはサブクレードC.3.1のB/Tokyo/EIS13-175/2025株が選定されている。
B (山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。
