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ハンタウイルス肺症候群(詳細版)

更新日 (last updated):2026年5月22日

 

ハンタウイルスは、ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属のウイルスの総称である。ユーラシア大陸に分布するハンタウイルスは腎症候性出血熱(HFRS: Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome)を、南北アメリカ大陸に分布するハンタウイルスはハンタウイルス肺症候群(HPS: Hantavirus Pulmonary Syndrome)を引き起こすことが知られている。

これまでHPSに関する報告は北米での事例からの知見が中心であり、前回詳細版が更新された2012年以降に多くのHPSに関する知見が集積された。今回HFRSの記載と分離するとともに、今般のクルーズ船におけるアンデスウイルスによるHPS事例を契機に、最新の知見に合わせて整理、更新した。

 

※以前の情報は「ハンタウイルス肺症候群(詳細版) 2012年8月版」をご参照ください。

疫学

初めて確認されたHPSのヒト症例は、1993年に米国南西部のフォーコーナーズ地域(ユタ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州の境界線が交差する地域)を中心に発生した。1993年の5月から8月までに30例の検査確定例が報告され、20例が死亡したと報告されている。

米国ではこれ以降、2023年までに859例のHPSの症例が報告されている。ほとんどの症例はミシシッピ川以西で報告されており、米国西部の農村地帯での発生が多いと報告されている。カナダでは2015年1月までに109例が報告されており、メキシコでもげっ歯類がハンタウイルスを保有していることが報告されている。

南米地域では、アルゼンチンからの報告が最も多く、チリ、ブラジル、パラグアイ、ボリビア、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラからもヒト症例が報告されている。2025年は第47週(11月17日から23日)までに南米地域から204例が報告されており、うち57例が死亡している。

アルゼンチン国内では1995年に初めて報告され、2008年までに710例、2009年から2017年の間に533例が国立もしくは地方自治体の研究所における検査で確定診断されている。報告地域は北西部で多く、次いで中央部とパタゴニア地域から多く報告されている。夏季を中心に温暖な時期に多い傾向にあり、農村での職業曝露による感染が多いと報告されている。2025年は77例の確定例(うち死亡例23例)が報告されている。

 

一般的にHPSではヒト-ヒト感染は報告されていないが、アルゼンチン及びチリに生息するオナガコメネズミを自然宿主とするアンデスウイルス(Orthohantavirus andesenseに属するAndes virus)で、限局的なヒト-ヒト感染が報告されている。

1996年にアルゼンチン南部で発生したアンデスウイルスによるHPSの事例では、流行地の住民もしくは流行地への訪問歴のある18例に加えて、患者と接触はあるが流行地への訪問歴がない2例が報告された。その後、チリでもヒト-ヒト感染の事例が報告されているが、ヒト-ヒト感染により広い地域で流行するような事例は報告されておらず、いずれも濃厚な曝露による飛沫・直接接触を介した伝播と考えられており、2018年から2019年にかけてのアルゼンチンでの事例では適切な隔離と接触者管理により伝播の終息に至ったと報告されている。

病原体

ハンタウイルスはハンタウイルス科オルソハンタウイルス属のウイルスの総称である。三分節型のマイナス鎖RNAをゲノムとするRNAウイルスであり、80‐120nmの球形粒子でエンベロープを有する。

ハンタウイルスは宿主特異性が高く、HPSの原因となるそれぞれのウイルスは特定の種のげっ歯類で保持されており、地理的分布も異なる。南北アメリカ大陸ではHPSを引き起こすハンタウイルスが15種程度報告されており、最初に報告されたシンノンブルウイルスは米国南西部のシカネズミを自然宿主とし、アルゼンチンやチリで循環しているアンデスウイルスはオナガコメネズミを自然宿主とする。

臨床症状

HPSの潜伏期は1週間から7週間(通常2週間程度)であり(Núñez JJ. 2014)、アンデスウイルスによるヒト-ヒト感染では最大6週間と報告される(Martínez VP. 2020)。潜伏期ののち発熱、頭痛、悪寒、関節痛、筋肉痛、結膜充血などの非特異的な症状が出現し、時に腹痛、下痢、嘔吐といった消化器症状を伴うことがある。この時期は前駆期と呼ばれ、2日から7日程度持続する。前駆期には呼吸器症状がみられることはまれである。アンデスウイルスが原因であった場合には、四肢の点状出血がみられることがある。

一部の患者は前駆期のみで自然軽快するが、患者によっては前駆期ののち、咳、呼吸困難といった呼吸器症状、頻脈、低血圧といった循環器症状が出現する心肺期となる。心肺期には急速に呼吸不全、循環不全が進行し、致命的な転帰をとる場合、心肺期の初期24時間以内に多く発生すると報告されている。心肺期は2から4日間継続する。

呼吸器症状に加え循環器症状も出現することから、ハンタウイルス心肺症候群(HCPS

: Hantavirus Cardiopulmonary Syndrome)と呼ばれることもある。

致命率は10%から50%程度と報告されているが、原因となるウイルスによって異なり、アンデスウイルスでは21%から36%程度と報告されている(Figueiredo LT. 2014、Alonso DO. 2019、Martínez VP. 2020)。

病原体診断

全血、血清、血漿、唾液、鼻咽頭拭い液などを検体として用い、検体に含まれる遺伝子をRT‐PCRにより増幅し、その遺伝子配列を調べることによりウイルスを同定する。もしくは、ウイルスに対する血中のIgM抗体やIgG抗体を、酵素抗体法や間接蛍光抗体法により検出する。生検や剖検で採取された組織検体を用いた診断法として、組織から抽出した核酸を用いたRT-PCRもしくは組織切片を用いた in situ hybridization 、免疫組織化学により用いて組織中に存在するウイルス遺伝子もしくはウイルス抗原を検出することでも診断できる。ウイルスの分離試験はバイオセーフティレベル(BSL)3の実験室内で実施される。

治療・予防

HPSに対して有効性が明らかな抗ウイルス薬はなく、治療にあたっては呼吸補助を含む対症療法が中心となる。

また、HPSに対して有効性が明らかなワクチンもない。同じハンタウイルスによる感染症であるHFRSに対するワクチンが中国、韓国で使用されているが、HPSに対する有効性は明らかではない。

 

ハンタウイルスはげっ歯類により媒介され、多くはげっ歯類の新鮮な糞または乾燥して粉じんとして舞い上がった糞、尿を吸い込む、げっ歯類に直接触れる、触れたものを介して鼻、目または口を触れることで感染する。

そのため、南北アメリカ大陸の発生地域では、特にげっ歯類やその排泄物との接触を避けることで、感染リスクを低減させることができる。また、屋内へのげっ歯類の侵入を防ぎ、巣をつくらせないようにするほか、居住環境を清潔に保つ、食品を保管する際には蓋をする、げっ歯類の糞で汚染された環境を清掃する場合は粉じんを舞い上がらせないように汚れた部分を事前に湿らせる、といった対策が必要となる。

なお、ウイルスの種類ごとに特定のげっ歯類が自然宿主となっており、HPSの原因となるウイルスを媒介するげっ歯類は日本国内には生息していない。

 

例外的にヒト-ヒト感染も報告されているアンデスウイルスについては、患者の発症前後の期間に感染伝播があったと推測される報告がある。ただしヒト-ヒト感染における正確な感染可能期間を推定するだけの知見はない。手洗い、マスク着用、咳エチケットなどの基本的な感染対策が有効である他、感染者との食器やタバコの共用、キスや性的接触などの濃厚接触を避けることが推奨される。

感染症法における取り扱い

全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)

参考文献

  • Alonso DO, Iglesias A, Coelho R, et al. Epidemiological description, case-fatality rate, and trends of Hantavirus Pulmonary Syndrome: 9 years of surveillance in Argentina. J Med Virol. 2019;91(7):1173-1181. doi:10.1002/jmv.25446
  • Argentina Ministerio de Salud. Boletín Epidemiológico Nacional. As of 11 May 2026. https://www.argentina.gob.ar/salud/boletin-epidemiologico-nacional.
  • Hantavirus. Reported cases of Hantavirus Disease. Updated 23 Apr. 2026. https://www.cdc.gov/hantavirus/data-research/cases/index.html#cdc_data_surveillance_section_2-reported-cases-of-hantavirus-disease-in-the-u-s.
  • Figueiredo LT, Souza WM, Ferrés M, Enria DA. Hantaviruses and cardiopulmonary syndrome in South America. Virus Res. 2014;187:43-54. doi:10.1016/j.virusres.2014.01.015.
  • Government of Canada. Surveillance of hantavirus related diseases. Date modified 8 May 2026. https://www.canada.ca/en/public-health/services/diseases/hantaviruses/surveillance-hantavirus-related-diseases.html.
  • Martinez-Valdebenito C, Calvo M, Vial C, et al. Person-to-person household and nosocomial transmission of andes hantavirus, Southern Chile, 2011. Emerg Infect Dis. 2014;20(10):1629-1636. doi:10.3201/eid2010.140353.
  • Martínez VP, Di Paola N, Alonso DO, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383(23):2230-2241. doi:10.1056/NEJMoa2009040.
  • Núñez JJ, Fritz CL, Knust B, et al. Hantavirus infections among overnight visitors to Yosemite National Park, California, USA, 2012. Emerg Infect Dis. 2014;20(3):386-393. doi:10.3201/eid2003.131581.
  • Ortiz N, Pinotti JD, Andreo V, González-Ittig RE, Gardenal CN. Orthohantavirus rodent hosts and genotypes in Southern South America: A narrative review. PLoS Negl Trop Dis. 2025;19(9):e0013489. Published 2025 Sep 9. doi:10.1371/journal.pntd.0013489.
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  • Vial PA, Ferrés M, Vial C, et al. Hantavirus in humans: a review of clinical aspects and management. Lancet Infect Dis. 2023;23(9):e371-e382. doi:10.1016/S1473-3099(23)00128-7.
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  • Hantavirus. Updated 6 May 2026. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus.

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