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風疹・先天性風疹症候群 2025年2月現在

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風疹・先天性風疹症候群 2025年2月現在

(IASR Vol. 46 p73-75: 2025年4月号)

風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。風疹に対する免疫が十分でない妊婦が風疹ウイルスに感染した場合には, 死産, 流産または児に先天性心疾患, 難聴, 白内障など様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)を生じる可能性がある(本号3ページ)。風疹ならびにCRSに対する特異的な治療法はないが, 風しん含有ワクチンを用いての予防が可能である。2014年に厚生労働省(厚労省)は「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定し, 早期にCRSの発生をなくすとともに, 2020年度までに風疹排除を達成することを目標にした施策の方向性を定めた。さらに2018年に厚労省は「風しんに関する追加的対策骨子」を策定し, 過去に風疹の定期予防接種を受ける機会がなく, 特に抗体保有率が低い世代(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)の男性を対象として, 抗体検査を前提とした定期予防接種(第5期)を2019~2024年度に実施した。

感染症発生動向調査:風疹は感染症法に基づく5類感染症, 全数把握対象疾患である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。2013年に14,344例の患者が届出された後, 2014~2017年には年間91~319例まで患者届出が減少していたが, 2018~2019年に各年2,000例以上の患者が届出される流行が発生した(図1)。2020年以降は再び患者届出数の少ない状況となっており, 特に2021~2024年は年間9-15例にとどまっている。

患者届出数の多かった2019年には20歳以上が患者の約94%を占め, 特に40代を中心とする男性の届出が多かった(図2)。2013~2024年における風疹患者の予防接種歴は, 「接種歴不明」が33-75%と多数を占めていた(図3)。予防接種歴が明らかな風疹患者では, 特に全国流行が発生した2013年ならびに2018~2019年において, 「接種歴なし」(全体の21-30%)の割合が多く, 「接種1回あり」(全体の5-8%)および「接種2回あり」(全体の1-2%)の割合は少なかった。非流行期の2014~2017年および2020~2023年においては, 患者の性別年齢分布ならびに予防接種歴別割合の特徴は明確でない。

CRSも感染症法に基づく5類感染症, 全数把握対象疾患である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html)。風疹流行にともなってCRS患者届出数が増加し, 2012~2014年には45例, 2019~2021年には6例の届出があったが, 2021年第3週以降は届出がない(図1)。

風疹の検査:2018年以降, 原則として全例の風疹症例に血清学的検査と遺伝子学的検査の実施が求められるようになった。病型別届出割合をみると, 2018年以降は検査診断例による届出割合が増加し, 83-100%で推移している(図4)。地方衛生研究所等では風疹ウイルス遺伝子検出による検査と, 陽性であった場合にはウイルス遺伝子配列の解析および遺伝子型分類が行われる。厚労省は, 感染症法に基づく行政検査を実施する公的検査機関に対し, 外部精度評価の機会を提供し, 調査結果の評価・還元を通じて精度保証の取り組みを促進し, 検査の信頼性を確保することを目的とした外部精度管理事業を実施している。2024年度の本事業では, 麻疹および風疹のウイルス遺伝子配列の解析と遺伝子型分類に関する外部精度管理が実施され, 76施設の参加があった(本号4ページ)。

予防接種率調査と感染症流行予測調査:2006年度から1歳児(第1期)ならびに小学校就学前1年間の児(第2期)に対し, 風疹の定期予防接種が実施されている。毎年の接種率調査によると2018~2020年度をピークにして, 近年, 低下傾向がみられている(本号5ページ)。2023年度の風しん含有ワクチンの全国の定期接種率は, 第1期94.9%, 第2期92.0%であり, 両者ともに前年度からのさらなる低下が認められた。第5期定期接種対象の男性のうち, 2024年11月までに抗体検査を受けた人は対象人口の32.4%, 予防接種を受けた人は対象人口の7.0%であった。

感染症流行予測調査における風疹感受性調査は, 2023年度は16都道県で4,860名, 2024年度は17都道県で4,830名を対象にして実施された(図5)。いずれの調査においても, 風疹HI抗体価1:8以上の抗体保有率は, 2歳以降の年齢・年齢群においておおむね90%以上であったが, 40~60代では女性と比較して男性で低い傾向が認められた(本号7ページ)。第5期予防接種対象の男性の抗体保有率は, 2015~2020年度の調査において継続して80%前後で推移していたが, 2021~2024年度の調査では80%後半まで増加が認められた。同年代の女性の抗体保有率と比較して低いものの, その差は減少している。

海外の状況:2012~2022年にかけて風しん含有ワクチン導入国数や世界全体のワクチン接種率が大幅に増加し, 患者報告数が減少するなど, 世界的な風疹対策に進展があったことが報告されている(本号10ページ)。現在, 世界保健機関(WHO)の各地域のうち, アフリカ地域を除く5つの地域において地域全体からの風疹排除が目標に定められており, 2015年にWHOアメリカ地域での風疹の排除が宣言されたのをはじめとして, 2022年時点で51%のWHO加盟国において風疹排除が認定された。一方で, アフリカ地域には多くのワクチン未導入国が存在することや, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時に予防接種が受けられなかった人が増加するなど, 風疹の再興・再流行のリスクは残されている。2019年のCRS発生数は全世界で32,000人と推計されているが, 大部分はワクチン未導入国での発生と考えられている。

今後の課題:2021年以降, 国内では風疹患者の非常に少ない状況が継続しており, 今後, 海外から風疹が持ち込まれた場合でも国内で再流行させないことが重要である。そのためには予防接種やサーベイランス, アウトブレイク対応等の継続的な維持・強化が求められる。地方行政・医師会・大学の連携によるデータ解析を基盤とした効果的なワクチン接種体制の整備や啓発・情報発信などの取り組みは, 予防接種事業推進のための工夫の一つである(本号12ページ)。感染症流行予測調査における風疹感受性調査では, 第5期予防接種事業の対象世代男性の抗体保有率の増加が確認されているものの, 今後も感染症流行予測調査を継続的に実施して, 抗体保有状況を把握していくことが重要である。なお, 第5期予防接種事業は3年間の延長を経て2024年度末で終了したが, 事業終了までに抗体検査を受検し, MRワクチンの偏在等が生じたことを理由にワクチンの接種ができなかった場合には, 2026年度末まで接種の対象となる可能性がある。

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