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腸管出血性大腸菌感染症 2026年3月現在

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腸管出血性大腸菌感染症 2026年3月現在

(IASR Vol. 47 p75-77: 2026年5月号)

病因, 臨床症状:腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC)感染症はVero毒素(Vero toxin: VTまたはShiga toxin: Stx)を産生する大腸菌の感染によって起こり, 主な症状は腹痛, 下痢および血便である。嘔吐や発熱をともなうこともある。VT等の作用によって血小板減少, 溶血性貧血, 急性腎障害を主徴とする溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)を引き起こし, 脳症などを併発して死に至る場合がある。

行政・検査対応:EHEC感染症は感染症法上, 3類感染症に定められている。本感染症を診断した医師は直ちに保健所に届出を行い(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html), その情報は都道府県等を通じて厚生労働省(厚労省)に報告される。医師が食中毒として保健所に届け出た場合や保健所長が食中毒と認めた場合には, 食品衛生法に基づき各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚労省へ報告する。地方衛生研究所(地衛研)および保健所はEHECの分離・同定, 血清型別, VT型別(産生性が確認されたVT型別またはVT遺伝子型別)を行い, その結果を感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報サブシステムに報告する(本号3ページ特集関連資料1)。国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所(感染研)細菌第一部は地衛研および保健所から送付された菌株の血清型, VT型の確認・同定を行うと同時に, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法, パルスフィールドゲル電気泳動法および全ゲノム配列を用いた単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)解析を行っている(本号5, 7, 8, 9, 1012ページ)。これらの解析結果は各地衛研および保健所へ還元されるとともに, 必要に応じて食品保健総合情報処理システム(National Epidemiological Surveillance of Foodborne Disease: NESFD)で各自治体等へ情報提供されている。

感染症発生動向調査:感染症発生動向調査の集計によると, 2025年にはEHEC感染症患者(有症者)2,472例, 無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される)1,866例, 計4,338例が届出され(表1, 図1), 年間当たりの届出総数は2011年以降で最も多かった。都道府県別の届出数(無症状を含む)は, 150名以上の届出数があり, 届出数の多い順に東京都, 神奈川県, 福岡県, 大阪府, 愛知県, 千葉県, 北海道, 埼玉県, 兵庫県, 群馬県となり, これら10都道府県で全体の57.7%を占めた。人口10万対届出数では島根県(11.8)が最も多く, 次いで秋田県(9.7), 岩手県(8.7), 山形県(8.5)であった(図2左)。0~9歳の人口10万対届出数では, 岩手県(33.3), 鹿児島県(33.1), 熊本県(28.4)などが多かった(図2右)。届出に占める有症者の割合は, 男女とも15歳未満および80歳以上で高かった(図3)。

HUS発症例は59例(有症者の2.4%)で, そのうち46例からEHECが分離された。このうちO157が41例で, VT型は37例がVT2陽性株(VT2単独またはVT1&VT2)であった(本号16ページ表)。EHECが分離されなかったHUS症例13例は, 患者血清中のO抗原凝集抗体検出または患者便からのVTの検出によるものであった。有症者のうちHUS発症例の割合が高い年齢群は0~4歳の7.4%, 5~9歳の6.3%であった(本号16ページ図)。

地衛研および保健所からのEHEC検出報告:2025年に病原体検出情報サブシステムへ地衛研および保健所から報告されたEHEC検出数は2,117件であった(本号3ページ特集関連資料1)。この数は保健所等で調査を行った菌株と, 医療機関や民間検査機関への菌株や検体の提出依頼に応じた菌株数の合算であるため, EHEC感染症届出数(表1)より少ない。全検出数における上位のO群の割合は, O157が51.8%, O26が10.0%, O103が9.1%であった(本号3ページ特集関連資料1)。VT型でみると, O157ではVT1&VT2が最も多く, O157の60.5%を占め, VT2単独は39.1%であった。O26およびO103はVT1単独が最も多く, それぞれ92.9%および96.9%を占めた。EHECが分離された有症者1,232例の主な症状は, 下痢84.0%, 腹痛79.5%, 血便55.4%, 発熱27.9%であった。

集団発生:病原体検出情報サブシステムに報告された「集団発生病原体票」によれば, 2025年は飲食店や保育施設が原因となった4事例が報告された(表2)。この他にもO145の集団事例が確認されている(本号5ページ)。一方, 「食品衛生法」に基づいて都道府県等から厚労省に報告された2025年のEHEC食中毒は10事例, 患者数362名(菌陰性例を含む)(2022年は8事例78名, 2023年は19事例265名, 2024年は16事例124名)で, 死亡例はなかった(本号78ページ)。感染研・細菌第一部での解析から, 疫学的関連が不明な散発事例間で同一のMLVA typeを示す菌株が広域から分離されていることが明らかとなっている(本号8, 9, 1012ページ)。

予防と対策:EHECは少量の菌数(10-100個程度)でも感染が成立するため, 食品・食材や環境から人への感染に加え, 人から人への経路, または人から様々な媒介物を介した経路で感染が拡大しやすい。

牛肉の生食による食中毒の発生を受けて, 厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した(2011年10月, 告示第321号)。さらに, 牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから, 牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月, 告示第404号)。2012年には, 漬物によるEHEC O157の集団発生を受けて, 漬物の衛生規範が改正されている(2012年10月, 食安監発1012第1号)。

例年同様, 2025年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例(本号5ページ特集関連資料2)が発生している。EHEC感染症を含む食品による危害を防ぐため, 2020(令和2)年6月から原則すべての食品事業者に対して危害分析重要管理点(hazard analysis and critical control point: HACCP)に沿った食品衛生管理の実施が義務化され, 営業者は自らが立てた計画に基づき衛生管理を実施することとなった(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html)。この他にもEHECによる食中毒を予防するためには, 食中毒予防の基本「付けない, 増やさない, やっつける」を守り, 生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続けることが重要である(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html)。

保育施設等での集団発生も多数発生しており(本号5ページ), その予防には, 手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei01/02.html)。家族内や福祉施設内等で患者が発生した場合には, 二次感染を防ぐため, 保健所等は感染予防の指導を徹底する必要がある。

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