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<特集>劇症型溶血性レンサ球菌感染症 2015年~2025年6月

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劇症型溶血性レンサ球菌感染症 2015年~2025年6月

(IASR Vol. 46 p175-177: 2025年9月号)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は, 感染症法上の5類全数把握疾患であり(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html), ショック症状に加えて肝不全, 腎不全, 急性呼吸窮迫症候群(ARDS), 播種性血管内凝固症候群(DIC), 軟部組織炎, 全身性紅斑性発疹, 中枢神経症状のうち2つ以上をともない, かつ通常無菌的な部位(血液など)等からβ溶血を示すレンサ球菌が検出されることである。

STSSの初期症状としては, 四肢の疼痛, 腫脹, 発熱, 血圧低下などで, 免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず, 突然発病する例がある。発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で, 発病後数十時間以内には軟部組織壊死, 急性腎不全, ARDS, DIC, 多臓器不全(MOF)を引き起こし, ショック状態から死に至ることも多い。

STSSを引き起こす主な病原体は, A群レンサ球菌(Group A Streptococcus: GAS, 主たる菌種はS. pyogenes), B群レンサ球菌(Group B Streptococcus: GBS, 主たる菌種はS. agalactiae)とC, G群レンサ球菌(Group C Streptococcus: GCS, Group G Streptococcus, 主たる菌種はS. dysgalactiae subsp. equisimilis: SDSE)である。これらの病原体によって起こる病像は多彩であり, 感染症法では, STSS以外にも, GAS咽頭炎が5類小児科定点把握疾患となっている。

1. 感染症発生動向調査(2015年第1週~2025年第26週)


劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS):STSSは2015年以降患者届出数が増加し, 2015~2019年は増加傾向であったが, 2020~2022年まで2019年と比較して届出数が減少した(図1および)。しかしながら, 2023年以降再び増加傾向となり, 2024年に過去最多の届出数となった。2025年は第26週現在ですでに787例である。

2015~2025年に届出された患者の年齢中央値は73歳, 患者の性比は1.18(男4,739, 女4,012)であった。全患者8,751例中, 届出時点での死亡例は, 2,253例(25.8%)であった(図2)。死亡例の年齢中央値は77歳で, その77.4%は発病から3日以内に死亡していた。

2015~2025年までに届出されたSTSSの起因菌はA群(45.3%)が最も多かった()。しかしながら, A群によるSTSSは2020~2022年の間に減少し, その期間はG群が最も多かった。2023年以降はA群が最も多くなり, 2023年後半から急増していた。2024年にはA群のみで1,000例以上の届出があった(図1)。

届出に必要な臨床症状(複数回答)は, ショック症状を必須症状とし, 腎不全(71%), DIC(58%), 軟部組織炎(56%), 肝不全(27%), 中枢神経症状(26%), ARDS(18%), 全身性紅斑性発疹(8%)であった。推定感染経路(複数回答)は接触感染・創傷感染(43%), 不明(42%), その他(経口感染を含む)(12%), 飛沫・飛沫核感染(8%)であった(本号4ページ)。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎:GAS咽頭炎は, 感染症法に基づく感染症発生動向調査で小児科定点から毎週患者数が報告される5類感染症である(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-17.html)。

GAS咽頭炎の年間患者報告数は94,073-495,913であり, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中の2020~2022年に減少した。季節変動性があり, 冬~春にかけて報告数が増加する(図1)。2015~2019年は, 年末から報告数が増加したが, 2020~2023年前半は例年を下回る報告数であった。その後, 2023年後半から報告数は増加した。2023年第50週および2024年第21週に過去10年間で最多の定点当たり報告数(5.04)を記録した(図1)。2015年第1週~2025年第26週までの累積患者報告数は, 東京都, 北海道, 福岡県, 埼玉県, 神奈川県, 大阪府, 千葉県, 愛知県が上位を占めた。GAS咽頭炎患者の年齢分布は, 9歳以下が82.5%を占め, 5歳児が全年齢中最多であった(13.4%)。

2. 病原体サーベイランス


典型的なSTSS症例がわが国で初めて報告された1992年以降, 地方衛生研究所(地衛研)と国立感染症研究所(現:国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所)が参加する衛生微生物技術協議会の溶血性レンサ球菌レファレンスセンター(SRC)(本号5ページ)が, 1)T血清型別, 2)emm遺伝子(S. pyogenesとSDSEの病原因子と関連のあるMタンパクをコードする遺伝子)型別, 等の病原体サーベイランスを行っている。

1)T血清型別:2015~2024年にSTSS患者から分離された総数1,986菌株中, T-1が810株(40.8%), T-B3264が247株(12.4%), T-12が176株(9.0%), T型別不能が494株(24.9%)であった(図3a)。2015~2019年はT-1が最も多く35.7-47.7%を占めたが, 2020~2022年には1.4-12.6%に減少し, 2023~2024年には31.0-54.5%に増加した。

また地衛研は, 2015~2024年にGAS咽頭炎患者から分離された年間62-1,013菌株のT型別を行った。GAS咽頭炎患者から分離された総数5,994菌株中, T-1が1,285株(21.4%), T-12が1,153株(19.2%), T-B3264が927株(15.5%), T-4が758株(12.6%)であった(図3b)。2015~2020年はT-1, T-4, T-12, T-B3264が多くを占めたが, 2021~2023年には分離割合の傾向が変わり, 2024年は再びT-1, T-4, T-12, T-B3264が多くを占めた。

東京都内でGAS咽頭炎およびSTSS患者から分離された菌株も2015~2019, 2023~2024年はT-1が多いという同様の傾向を示した(本号6ページ)。

2)emm遺伝子型別:疫学情報として有用なemm塩基配列を指標にした型別では, 2015~2024年のSTSS患者由来GAS1,986菌株のうち, emm1型が41.0%(815株)を占めていることが分かった(本号8ページ)。

3)薬剤感受性:STSSの治療にはペニシリン系抗菌薬とクリンダマイシンの併用が推奨されている(本号9ページ)。2015~2024年に分離されたSTSS患者由来1,296菌株についてSRCで薬剤感受性試験を行ったところ, ペニシリンG, アンピシリン, セファゾリン, セフォタキシム, メロペネム, リネゾリドには感受性であったが, 97株(7.5%)はクリンダマイシン耐性, 348株(26.9%)はエリスロマイシン耐性であった。

GAS咽頭炎にはペニシリン系抗菌薬が第一選択薬である。2015~2024年に東京都で分離されたGAS咽頭炎患者由来690菌株は, ペニシリン系抗菌薬を含むβ-ラクタム系抗菌薬に対しては, 全菌株感受性であったものの, マクロライド系抗菌薬に対しては22.5%, クリンダマイシンに対しては6.7%が耐性であった(本号6ページ)。

3. B群レンサ球菌


GBSはSTSSの他, 垂直感染による新生児侵襲性感染症の起因菌となる。感染症発生動向調査の基幹定点から毎週報告される5類感染症「細菌性髄膜炎(髄膜炎菌, 肺炎球菌, インフルエンザ菌を除く)」の中では, GBSは主要な起因菌の1つである。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班の調査によると, 2015年以降, 5歳未満小児の10万人当たり罹患率は, 髄膜炎で0.6-2.0, 非髄膜炎感染症で1.3-2.9であった(本号11ページ)。

また, 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)のデータベースによると, レボフロキサシンの耐性率は, 25.9-55.5%である(本号12ページ)。

4. おわりに


近年GAS咽頭炎報告数およびSTSS届出数が増加している。また, 欧州の複数の国においても, 小児での無菌部位から菌が検出される侵襲性GAS感染症の報告数が急増したと報告されている(本号13ページ)。

感染症発生動向調査における病原体サーベイランスでは, STSS患者およびGAS咽頭炎患者から菌を分離し, 型別や薬剤感受性の動向を把握し, その情報を臨床医や公衆衛生担当者に正確に還元することが, 患者の病態解明, 早期治療を行うために重要である。

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