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<特集> インフルエンザ 2024/25シーズン

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インフルエンザ 2024/25シーズン

(IASR Vol. 47 p211-213: 2025年11月号)

2024/25シーズン(2024年第36週~2025年第35週)のインフルエンザは, 前シーズンにあたる2024年第25週頃から報告数が増加傾向を示し, 2024年第52週に定点当たり64.39を記録した。

2024/25シーズン患者発生状況(2025年9月12日現在):感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)から毎週インフルエンザ患者数が報告されていた(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-28.html)。なお2025年第15週以降は, 全国約3,000の急性呼吸器感染症(ARI)定点(小児科約2,000, 内科約1,000)からの報告に変更されており, データの解釈には注意が必要である。

全国の定点当たり報告数は, 2024年第36週に0.45(患者報告数2,220), その後第52週に64.39(患者報告数317,812)となりピークを迎えた(感染症法施行以来最大の定点当たり報告数)。以降は速やかに減少傾向を示した。2025年第18週に定点当たり報告数が1.00を下回ったが, 以降は定点当たり報告数0.3程度と, 例年より比較的高い水準で推移した(図1)。また, 地域によっては特徴的な流行がみられた(本号46ページ)。

定点報告数を基にした, 全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数の推計では, 2024/25シーズンは累積推計受診者数約1,037.5万人(2024年第36週~2025年第14週)となった。なお, 2025年第15週以降は定点数の変更により推計対象に含めていない。

2024/25シーズンは, 前シーズンからの流行状況が続き, ピークは年末年始の時期で記録的に高かった。特にピーク時の医療機関における負荷は非常に高い状況であった(本号4ページ)。

基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスによる入院患者総数は2024/25シーズンは29,157人となり, 2023/24シーズン(19,389人)を大幅に上回った。

5類感染症全数把握疾患である急性脳炎(脳症を含む)にインフルエンザ脳症として届け出られたのは182例であった。

2024/25シーズンウイルス分離・検出状況(2025年9月11日現在):全国の地方衛生研究所・保健所が分離・検出し, インフルエンザ病原体サーベイランスに報告したインフルエンザウイルスは5,047(分離2,752, 検出のみ2,295)(表1), うちインフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出報告数は4,722, 定点以外の検体からの分離・検出報告数は325であった(表2)。型・亜型別ではA/H1pdm09亜型が3,796株, A/H3亜型が603株(亜型未同定は31株)で, B/Victoria系統が566株, B/山形系統の報告はなかった(系統未同定は26株)。2024/25シーズンはA/H1pdm09亜型が大きく流行したが, 2025年に入ってからA/H3亜型とB/Victoria系統の報告数が増えた(図1および図2)。

2024/25シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析(本号7ページ):A/H1pdm09亜型ウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子解析の結果, 解析した株はサブクレードC.1.9 , C.1.9.3あるいはD.3.1に属していた。抗原性解析では, 多くの流行株が, 2024/25シーズン世界保健機関(WHO)推奨ワクチン株A/Victoria/4897/2022の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。また, ワクチン接種後のヒト血清を用いた解析でも, 解析株とはおおむね反応した。A/H3亜型ウイルスのHA遺伝子解析の結果, 解析した株はサブクレードJ.2, J.2.2あるいはJ.2.4に属した。抗原性解析の結果, 解析した株は, 2024/25シーズンWHO推奨ワクチン株のA/Thailand/8/2022の卵分離株に対するフェレット感染血清とおおむねよく反応したが, 流行の主流であったJ.2あるいはJ.2.2に属するウイルスに対するフェレット感染血清との反応性の方がより良い傾向であった。ワクチン接種後のヒトの血清については, J.2およびJ.2.2に属するウイルスとの反応性が低下した。B/Victoria系統ウイルスのHA遺伝子解析では, 解析した株はサブクレードC.5.1, C.5.6, C.5.6.1あるいはC.5.7に属した。抗原性解析では, 試験した多くの株が, 2024/25シーズンWHO推奨ワクチン株のB/Austria/1359417/2021に対するフェレット感染血清とよく反応した。ワクチン接種後のヒト血清についても, 多くの流行株とよく反応した。B/山形系統は解析された株がなかった。

2024/25シーズン分離ウイルスの薬剤耐性(本号7ページ):解析したA/H1pdm09亜型ウイルスは, ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株が検出された。A/H3亜型ウイルスは, NA阻害剤に対する耐性株は検出されなかったが, バロキサビルに対する耐性株が検出された。B型ウイルスは, NA阻害剤に対する耐性株が検出されたが, バロキサビルに対する耐性株は検出されなかった。

2024/25シーズン前の抗体保有状況:予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業により, 2024年7~9月に採取された血清(3,707名)を用いて, 2024/25シーズン前の国内のインフルエンザワクチン株に対する年齢群別の抗体保有割合(HI価≧1:40)を調査した(本号12ページ)。A(H1N1)pdm09亜型ワクチン株に対する抗体保有割合は, 前シーズンと同じワクチン株で保有割合の上昇がみられたが, 全年齢群で約30%あるいはそれ以下と, 非常に低い保有割合であった。A(H3N2)亜型ワクチン株については, 前年度から変更となったが, 一部の年齢群を除き保有割合の上昇がみられた。5~9歳群, 10~14歳群, 15~19歳群は40%以上であったが, 他の年齢群は20-40%であった。B/山形系統のワクチン株に対しては, 過去3年間と同様の傾向を示し, A型と比べ高い傾向であった。B/Victoria系統のワクチン株に対しては, 前年度と同様の傾向であった。保有割合のピークは55~59歳(39%)で, それ以下の年齢群では25%未満の保有割合で, 30代が最も低い保有割合であった。

季節性インフルエンザワクチン:2024/25シーズンはA型2亜型とB型2系統による4価ワクチンとして約3,649万本が製造され, 約2,567万本(推計値)が使用された(1mL/本として, 1回接種当たり0.5mL)。2025/26シーズンワクチン製造株は3価となり, A/H1pdm09亜型:A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238), A/H3亜型:A/パース/722/2024(IVR-262), B/ビクトリア系統:B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)が選定された(本号14ページ)。2025/26シーズンは3,121万本のワクチン製造が見込まれている。

動物由来インフルエンザ:2024年9月以降の鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例は, A(H5N1)ウイルス(NA亜型不明も含む)は, 米国56例, カナダ1例, ベトナム2例, バングラデシュ5例, カンボジア16例, 中国1例, インド1例, メキシコ1例および英国1例が報告された(2025年9月29日時点)。これらヒト感染を起こしたH5ウイルスのHAの主なクレードは, カンボジア・ベトナムの事例では2.3.2.1e, インド・バングラデシュの事例では2.3.2.1a, それ以外の事例では2021年以降に鳥類で世界的に大流行している2.3.4.4bに分類されることが報告されている。また, 中国において, A(H9N2)ウイルスとA(H10N3)ウイルスのヒト感染例が, それぞれ40例と3例が報告された。なお, これらのウイルスによるヒト-ヒト感染は確認されていない。A(H5N1)ウイルスについては, 野鳥・家禽での感染だけでなく, 近年では, 陸生・水生哺乳動物への感染事例が多く確認されており, 注視が必要である(本号16ページ)。2024年3月以降, 米国においてA(H5N1)ウイルスによる乳牛への感染と, そこからヒトへの伝播が確認されており, 2024/25シーズンも継続して報告された(本号18ページ)。日本においても, 海鳥のA(H5N1)ウイルス感染による大量死にともなう, ゼニガタアザラシやラッコでのA(H5N1)ウイルス感染事例が報告された(ラッコでの高病原性鳥インフルエンザウイルス感染報告は世界初)(本号20ページ)。

2024/25シーズンにおけるブタインフルエンザウイルスは, 中国とドイツでA(H1N1)vが, 米国でA(H1N2)vのヒト感染事例が1例ずつ報告された(本号16ページ)。

おわりに:2024/25シーズンのインフルエンザは, 現行の感染症発生動向調査が始まった1999年以降, ピークにおける週当たりの定点当たり報告数が過去最高となった。ハイリスクグループへのワクチン接種等の公衆衛生上の対策の実施とともに, 患者サーベイランス等の重層的な指標に基づく流行の把握(本号2223ページ), 病原体サーベイランスに基づく流行株の遺伝子解析, 抗原性解析, 薬剤耐性調査等による流行ウイルスの監視, ならびに国民の抗体保有状況の調査等を含む, 包括的なインフルエンザの監視体制の強化と継続が求められる。また, 季節性インフルエンザだけでなく, 世界的なA(H5N1)ウイルスの感染拡大からみられるように, 動物由来インフルエンザウイルスの監視も重要である。

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