ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症 1999年4月~2024年12月

ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症 1999年4月~2024年12月
(IASR Vol. 47 p23-24: 2026年2月号)はじめに
肺炎球菌はグラム陽性の双球菌であり, ヒトに髄膜炎, 菌血症, 胸膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases: IPD)や, 肺炎, 中耳炎といった非IPDを引き起こす。さらに, 健康なヒトの一部は咽頭に肺炎球菌を保菌している。IPDを予防するために, 現在15価あるいは20価肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine: PCV)が小児の定期予防接種において使用されている。成人も任意でこれらを接種することができる(本号4ページ)。成人および2歳以上の児は23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(pneumococcal polysaccharide vaccine: PPSV23)も接種が可能である。さらに2025年8月には21価PCV(PCV21)が成人に対して承認された。
ペニシリンは肺炎球菌感染症治療におけるキードラッグである。肺炎球菌は6種類のペニシリン結合タンパク(penicillin-binding protein: PBP)を持ち, そのうちPBP1A, PBP2B, PBP2Xがペニシリンを含むβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性に関与する(本号12ページ)。肺炎球菌は同種菌株間あるいはStreptococcus mitis/oralisなどの近縁種株との間で遺伝子組換え(自然形質転換)を行うことが知られている。この遺伝子組換えがペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)を発生させる要因の1つである。
PRSP感染症は感染症法上の5類基幹定点報告の感染症である。指定届出機関の管理者は, 当該指定届出機関の医師が同感染症と診断した際, 管轄保健所への届出が義務付けられている。令和7(2025)年4月にこの届出基準に変更があったため, 本稿では変更までのPRSP感染症の概要およびその届出状況等について報告する。
ペニシリン耐性肺炎球菌感染症届出基準の変更
2025年4月7日より, PRSP感染症の基幹定点医療機関における届出基準が変更となった。この変更により従来使用されていたオキサシリン感受性に基づく基準が廃止され, ペニシリン感受性に基づく基準に一本化された(本号3ページ)。また, 変更前は喀痰や膿, 尿などの通常無菌的ではない検体から起因菌として分離された肺炎球菌株に対しても, 「ペニシリンの最小発育阻止濃度(MIC)が0.125 μg/mL以上」という基準が適応されていたが, 今回の変更で通常無菌的ではない検体由来株については, MIC ≧4 μg/mLという基準に変更となった。
薬剤感受性試験の結果(MICや阻止円径)をもとに, 菌を「感受性・耐性」などに分類する基準値として, Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)ブレイクポイントが広く用いられている。CLSIブレイクポイントにおいては, IPD由来株の中で髄膜炎由来株とそれ以外の株とで耐性基準が異なる。これは, 上記の本邦届出基準が髄液を含めた無菌検体由来株を一律に扱っている点と異なる。本特集号においてもPRSPの定義が各記事によって異なるため注意されたい。
感染症発生動向調査におけるPRSP感染症の発生状況
2000年代以降, PRSP感染症の報告数は減少傾向であり, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期にさらに減少した(図1)。また2010年以前は届出の半数以上は14歳以下の患者であったが, 現在では半数近くが65歳以上の患者である(図2)。
PCVの普及は, 肺炎球菌集団に選択圧をかけその血清型分布を変化させる。また, 血清型の分布とPRSP疫学(耐性率や主要な血清型など)は密接に関連するため, PCVの普及によりPRSP疫学も変化する。そのため, PRSP疫学は社会における抗菌薬使用状況に加えて, その地域で使用されている肺炎球菌ワクチンの種類や接種率の影響も受ける点に注意が必要である。
JANISデータからみたPRSPの現状
厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance: JANIS)は, 本邦で検出される肺炎球菌の薬剤耐性に関する包括的な情報を収集している。JANISデータを2025年4月変更後の届出基準で解釈した場合, 2018~2023年にかけて全年齢層におけるペニシリン耐性率は血液由来株(2018年:25.7%, 2023年:36.2%), 髄液由来株(2018年:31.8%, 2023年:50.9%)ともに上昇していた(本号6ページ)。
成人IPDにおけるPRSP
感染症法に基づく定点把握とともに, 厚生労働省による新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの強化のための研究」における成人IPDに関する疫学研究は, 本邦で成人IPD症例から検出されるPRSPに関する重要な情報を提供してきた。同研究ではCLSIに準拠した耐性基準を用いているが, 2013~2024年の間に収集された15歳以上の成人IPD由来株のうち, 髄膜炎由来株(n=403)におけるペニシリン耐性(MIC≧0.125 μg/mL)率は38.5%であった。一方で, 非髄膜炎由来株(n=2,624)では, ペニシリン低感受性率(MIC=4 μg/mL)は0.9%, 同耐性率(MIC≧8 μg/mL)は0.5%であった(本号8ページ)。
小児IPDにおけるPRSP
菅らは2008年から継続的に小児(15歳未満)IPDのアクティブサーベイランスを実施してきた(本号9ページ)。同研究班の報告によると, 2008~2024年3月までに登録された菌株のうち, 髄膜炎由来株(n=209)におけるペニシリン耐性率は49.8%, 非髄膜炎由来株(n=1,511)におけるペニシリン低感受性率は1.3%, 同耐性率は0%であった。また, 髄膜炎由来株では, PCV7導入前(2008年~2010年1月)の耐性率が65.3%であったのに対し, PCV7およびPCV13導入後の2013年11月以降では39.6%であった。この減少は, PCV7やPCV13が当時PRSPの主要な血清型であった6B, 23F, 19F, 14, 19Aをカバーしていたことによると考えられる。
本邦で流行しているPRSPクローン
本邦では, PCV7導入前後に19A-ST3111, 15A-ST63(本号12&13ページ)がPRSPの主要なクローンであったが, その後血清型19AがPCV13でカバーされたことで19A-ST3111はほぼ検出されなくなった。また, PCV13導入後より徐々に35B-ST558が増加してきた。最近では35B-ST156が出現してきており(本号14ページ), その動向に注意が必要である。
まとめ
PRSP感染症の報告数は2004年頃をピークとして減少してきたが, この数年耐性率は上昇してきている。COVID-19の流行にともなって2020年以降IPD発生数自体が減っていたが, 今後IPDが増加した場合, PRSPによるIPDも増加してくることが懸念される。今後の小児, 成人領域における各PCVワクチンの普及がPRSPクローンの増減や新規クローンの出現にどのような影響を与えるか注目される。
