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侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2026年4月

侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2026年4月

(IASR Vol. 47 p161-162: 2026年9月号)

侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)は, 髄膜炎, 菌血症, 敗血症等を来たすグラム陰性双球菌の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による感染症である。髄膜炎菌は, 莢膜多糖体の糖鎖の違いにより12の血清群に分類され, このうちA, B, C, X, Y, W群が主にIMDを引き起こす。一方で, 健康なヒトの鼻咽頭からも国内では1%未満の頻度で分離され, いわゆる「健康保菌者」も存在する。感染経路は保菌者・患者からの飛沫感染であり, 同居等の長時間の接触や飲料の回し飲み, キス等の濃厚な接触は, 感染伝播のリスクを高める。また, 補体欠損症または補体機能低下, 無脾症(脾機能不全を含む), HIV感染症等の免疫不全を有する場合は, IMD発症のハイリスク者とされる。

IMDは, 2013年4月1日から感染症法に基づく5類全数把握対象疾患に位置づけられた。2016年11月以降は, 血液, 髄液に加え「その他無菌部位」から病原体が検出された症例も届出対象となっており, 診断した医師には患者の氏名・住所を含め, 診断後「直ちに」届け出ることが義務づけられている(IASR 39: 1-2, 2018)(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-01.html)。なお, 菌種同定に質量分析法が用いられた場合には, 誤同定の可能性があるため, 追加検査による確認が重要である(本号6ページ)。

IMDは重篤な疾患であり, 適切な治療が行われた場合でも致命率は10-15%とされる。潜伏期間は平均4日(2~10日)で, 発症初期には発熱, 頭痛などの非特異的症状を呈することがあるが, 急速に重症化し, 死亡または後遺症に至ることがある(本号7ページ)。

治療には主にセフトリアキソン, セフォタキシムが用いられ, 分離株がペニシリンG感性であることが確認された場合には, ペニシリンGまたはアンピシリンへの変更が可能とされる。国内分離株の薬剤感受性解析からは, セフトリアキソンに対する良好な感性が確認された一方, ペニシリンGでは耐性を含む非感性株が多く認められた(本号4ページ)。

感染症発生動向調査:2013年4月~2026年4月までに464例が届出された(図1)。2013~2019年までの届出数は年間20-40例程度であったが, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期にあたる2020~2022年は年間1-13例に減少した。2023年に21例とCOVID-19流行期前の水準に戻り, その後は2024年68例, 2025年84例と増加した。2025年の届出数は, 5類全数把握疾患となった2013年以降で最多であった。なお, 2026年1~4月の届出数は22例であり, 過去同時期の届出数と比較し, 2025年に次いで2番目に多かった。

都道府県別の届出数は, 多い順に東京都, 大阪府, 愛知県, 兵庫県, 神奈川県であり, これら5都府県で全体の51%を占めた。2019年人口を用いて算出した人口10万対届出数では, 沖縄県(1.17)が最も多く, 次いで和歌山県(0.86), 大阪府(0.62)であった。

届出例の性別は, 男性が55%(254例)であった。年齢群別では70代以上の届出が最も多く, 50代以上が58%(271例)を占めた(図2)。感染地域は, 国内とされた症例が86%(401例)であった。届出時点の致命率は8.6%(40/464)で, 20代以下の年齢群でも届出時死亡例が確認された。

血清群別届出状況と分子疫学的解析:2013年4月~2026年4月までに届出された464例のうち, 211例(45%)で血清群に関する情報が報告された(図3)。このうち, Y群が114例と最も多く, 次いでB群が46例, W群が19例, C群が10例となっている。このほか, Y群またはW群かを群別できなかったものが16例, 群別不能であったものが6例認められた。

国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では, multilocus sequence typing(MLST)法を用いた遺伝子型(sequence type: ST)の解析を実施し, 国際的データベースへの照合による分子疫学的解析を実施している。2018~2023年までに97株が収集された。過去の国内分離株では血清群Y株のST-23が優位であったが(IASR 39: 3-4, 2018), 今回の解析では, 血清群Y株ではclonal complex(cc)23に属するST-1655が, 血清群B株では日本固有株であるST-2057が主に検出された。他の株と比較して侵襲性が高いとされるST-11の分離は限られており, 2023年時点では海外からの流入が推測される株の顕著な増加は認められていない(本号3ページ)。

患者発生時の感染拡大防止とワクチンによる予防:IMD患者発生時には, 患者に対する迅速な治療に加え, 感染拡大の防止が重要である。患者の感染可能期間の接触者を速やかに特定し, 濃厚接触者・ハイリスク者に対しては, 可能な限り早期に抗菌薬の曝露後予防投与を実施することが重要である。予防投与には, 経口薬としてリファンピシンまたはシプロフロキサシンが用いられるほか, セフトリアキソンの筋肉内投与も選択肢となる。ただし, 国内分離株では, シプロフロキサシン非感性株がST-2057等の一部の遺伝子型に偏って認められていることから(本号4ページ), 起炎菌の解析を待たずに処方する場合, 抗菌薬の選択に留意する必要がある。シプロフロキサシン耐性が懸念される場合には, アジスロマイシンも選択肢となる。

また, 中・長期的予防の観点では, ワクチン接種が選択肢となる。国内では, 血清群A, C, WおよびYを対象とする4価髄膜炎菌ワクチン(破傷風トキソイド結合体)が接種可能であるが, B群を対象とするワクチンは国内では承認されていない。一方, 国際的には, 5価髄膜炎菌ワクチンとして, B群を含むMenABCWYワクチンおよびX群を含むMenACWYX結合型ワクチンが承認・導入されている(本号13ページ)。

海外での発生状況:日本と同様, 海外の複数国においても2020~2021年のCOVID-19流行期にはIMD症例数が減少し, その後再増加が確認された(本号10ページ)。再増加後の血清群分布は国・地域により異なり, 米国ではY群の顕著な増加や, 薬剤耐性株の増加が公衆衛生対策上の課題となっている。サハラ以南アフリカの「髄膜炎ベルト」では, 周期的な流行が継続する一方, 欧米諸国では学生, 若年成人に関連したアウトブレイクが報告されており(本号12ページ), 国内でも散発的ながら学生寮等の共同生活歴を有する症例が発生している(本号8ページ)。また, 国際的マスギャザリングイベントは, 保菌率や流行株が異なる地域から多様な参加者が集まるため, アウトブレイク発生に特に注意を要する。海外では, これまでもイスラム教の聖地巡礼等に関連した事例が報告されているほか, 過去には国内でもマスギャザリング関連事例が報告されている(IASR 36: 178-179, 2015)。

国内では2024年以降, IMD届出数が増加し, 国際的マスギャザリングイベントの開催機会も増加している。こうした状況を踏まえ, 感染研ではIMD発生時対応ガイドラインを更新した(本号15ページ)。患者発生時の公衆衛生対応には, 菌株解析による血清群・遺伝子型・薬剤感受性の把握が重要であり, 医療機関, 保健所, 地方衛生研究所および感染研の連携強化が求められる。

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