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百日咳 2025年11月現在

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百日咳 2025年11月現在

(IASR Vol. 47 p1-2: 2026年1月号)


百日咳は, 感染症法に基づく医師の届出基準では「百日咳菌(Bordetella pertussis)によって起こる急性の気道感染症」と定義されている。主な症状は長期間続く特有のけいれん性の激しい咳嗽である。国内では従来, 沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(DPT-IPV)が定期接種として接種されてきたが, 2024年4月からDPT-IPVにヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンを加えたDPT-IPV-Hibが定期接種に導入された(本号3ページ)。百日せきワクチンの免疫効果は約4~12年で減弱すると見積もられており, 既接種者も感染することがあるが, 症状は非典型的であることが多い。家族等ワクチン未接種児の周囲にいる者が感染し, 新生児や乳児が罹患すると重症化することもある。海外では乳児の百日咳予防策の1つとして, 妊婦を含む青年・成人への成人用3種混合ワクチン(Tdap:国内未承認)の接種が推奨されている(IASR 40: 14-15, 2019)が, 日本ではDPTを任意接種で使用することができる。

2018年1月1日から, 百日咳は感染症法に基づく5類感染症全数把握対象疾患となった(IASR 39: 13-14, 2018)。これにより, 感染症発生動向調査に届け出られる症例は百日咳の臨床的特徴を有し, かつ原則的に実験室診断により診断が確定した症例となった(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-23.html)。

実験室診断:百日咳の病原体検査には菌培養検査, 血清学的検査, 遺伝子検出検査がある(IASR 38: 33-34, 2017)。菌培養検査は特異性に優れるが, 特殊な培地を要するだけでなく, 百日咳菌の発育が遅いため, 臨床検体からの分離・培養は容易ではない。血清学的検査としては, 世界的に抗百日咳毒素抗体(抗PT-IgG)の抗体価が用いられている。これに加え, 国内では2016年に百日咳菌に対するIgMおよびIgA抗体を測定する血清学的検査が, そして2021年に百日咳菌抗原を検出するイムノクロマト法がそれぞれ健康保険適用された。遺伝子検出検査は最も感度が高く, 国内では, 世界的に採用されているリアルタイムPCR(polymerase chain reaction)法のほか, 特異性が高くリアルタイムPCR法よりも簡便・迅速な検査法として開発された百日咳菌LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法, さらに近年普及が進んでいる多項目同時PCR検査法などが診断に役立っている(本号4ページ)。なお, 百日咳の検査法は患者の発症日からの時期によって用いる検査法の推奨時期があり, 正確な診断には, 各検査法に適した時期に採取した検体を用いることが重要である〔詳細は「感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第三版)百日咳」https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/040/pertussis_guideline_20250326.pdfを参照のこと〕。

感染症発生動向調査:2018~2025年までの週ごとの患者届出数(図1)を示す。なお, 過去に本誌で掲載した百日咳特集(IASR 40: 1-2, 2019, IASR 42: 109-110, 2021)では, 感染症法に基づく医師届出ガイドラインに則った症例のみを抽出していた。一方, 本特集記事では, 集計時点で届出・受理された全症例を解析対象としており, 医師届出ガイドラインの基準を満たしているかどうかの確認は行っていない。そのため, 以前の特集記事と届出数が一致しない場合がある(医師届出ガイドライン準拠症例については本号5ページを参照)。

全数届出が開始された2018年第1週~2025年第44週までの間に感染症発生動向調査に届出された百日咳患者は122,955例であった。2018年, 2019年には年間でそれぞれ12,118例, 16,847例の届出があったが, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した2020~2023年は年間届出数が3,000例未満にとどまった。しかし, 2024年の後半以降, 百日咳の届出数は増加し, 2025年には第1~44週の届出数が過去の年間届出数を大きく上回る84,911例に達した。COVID-19の流行期間中に百日咳の患者届出数が減少し, その後急増する傾向は, 日本だけでなく世界各国で観察されている(本号7ページ)。

年齢群別では, 2024年, 2025年は10代の患者が占める割合が大きく増加した(図2)。2018~2025年に届出された患者のうち, 百日咳に罹患すると特に重症化しやすいとされる6か月未満の乳児の患者数は3,065人(2.5%)であった。また, 1~14歳の症例のうち約60-70%で4回の予防接種歴があった一方で, 本来, 少なくとも1回の定期接種を受けていると想定される1~4歳の年齢群の症例においては, 10%弱で接種歴がなかった(図3)。

2025年第1~44週に届出された患者のうち, 医師届出ガイドラインの基準を満たしたものは83,793例で, 感染経路が把握された症例の大部分は, 同胞(兄弟姉妹)や父親, 母親との接触による家庭内感染であった(本号5ページ)。

百日咳抗体保有状況:2023年度の感染症流行予測調査によると,  百日咳菌の百日咳毒素(PT)に対する抗体保有率は, 月齢0~5か月で100%近く, 月齢6~11か月で約90%であった(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/2023/pertussis/yosoku/index.html)。しかし, その後抗体保有率は低下し, 8, 9, 12, 17歳では30%を下回っていた。また, 2023年度は, 過去の調査(2013, 2018年度)と比較して学童期以降の抗体保有率が全体的に低下しているだけでなく, 年齢にともなう抗体価の上昇傾向も明確には認められなかった。

百日咳の病原体と分子疫学:百日咳菌は, PT遺伝子のプロモーター領域(ptxP)の遺伝子多型によりptxP1系統とptxP3系統に大別される。近年, 百日咳菌の流行株は, 従来主流であったptxP1系統からptxP3系統にシフトしていることが報告されている(本号8ページ)。また, 治療の第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬に耐性を有する百日咳菌(macrolide-resistant B. pertussis: MRBP)が国内でも問題視されており, MRBPの検査手法に関する知見が更新されている(本号9ページ)。また, 病原体検査に基づく治療の重要性も指摘されている(本号10ページ)。引き続き臨床分離株の解析(本号13, 1416ページ)やMRBPのモニタリングを継続することが重要である。

おわりに:百日咳は2018年1月1日から開始された感染症発生動向調査への全数届出により, 届出患者の年齢分布や症状, 予防接種歴などの詳細な疫学情報が得られるようになった。加えて, 2025年11月10日に公布された『急性呼吸器感染症に関する特定感染症予防指針』の対象疾患に定められており(本号17ページ), 今後の急性呼吸器感染症対策の基盤強化に加え, 百日咳の予防・対策の検討と実施のさらなる推進が期待される。

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